前回、3→5%への消費増税が行われた1997年を振り返ると、4-5月は厳しい展開になり、6月に入るとようやく復調の兆しが出てきたところへ、夏にアジアの通貨危機、秋には三洋証券の経営破綻、山一證券の自主廃業と続き、非常に厳しい1年となった。当時の橋本龍太郎政権が、少し景気が良くなってきたところで景気の下支え策を中止してしまった政策ミスも重なった。今回はその教訓を生かして5.5兆円の経済対策が打たれるが、相変わらず公共工事に偏重している。
消費基調の弱さを指摘する声もある。春闘で賃上げはあったが、消費者物価の上昇や消費増税による値上げの影響がそれを上回り、実質所得がマイナスになっている可能性が高い。加えて、前回増税時に茨城県東海村の核燃料再処理工場で爆発事故があり職員が被ばくしたが、現在、東日本大震災による東京電力福島第1原発事故は収拾のメドが立っていない。
3月23日付日本経済新聞は「社長100人アンケート」の結果として、駆け込み需要の反動減は「年間売り上げの5%未満」と「なし」の回答が計7割を超え、さらに「国内景気は9月頃までに上向く」との回答が55%となったと報じた。主要企業の経営者の強気な景況感を改めて裏付けた、としているが、経営トップが「影響を大変心配している」と簡単に言うとは考えにくい。
機関投資家は97年の経緯を熟知しており、4-5月は消費増税の影響をしっかり見極めたいとしている。この間に中国では経済に急ブレーキが掛かり、銀行で取り付け騒ぎが発生した。ウクライナ事変が起こり、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の「来春にも米利上げ」の発言から、今後、新興国経済はさらに大きな打撃を受けることも予想され、外的要因は前回増税時より深刻との見方もある。
●分かれる各社の対応、相次ぐ値上げ…
一方、国内における消費増税による影響を整理すると、まず、消費者が価格に敏感になる食品や日用品を扱う食品スーパーの再編淘汰が加速するといわれている。
また、100円で遊ぶゲーム機が多いゲームセンターでは、1円単位の価格転嫁が難しいため、実質的に増税分を事業者がかぶることになる。近年、家庭用ゲーム機やスマートフォン(スマホ)のゲームに押されてゲームセンターの閉店が相次いでいるが、これが加速する懸念が指摘されている。自動販売機の飲料は10円単位で値上げとなり便乗値上げとの批判が起こったが、中小事業者は大手企業と同じような強気の値上げはしにくい。
大手衣料品のエイチ・アンド・エム(H&M)は、消費増税後も当分の間、現在の税込み価格を据え置き、実質的な値下げを行う。一方、競合するユニクロは税込み価格を税抜き価格に変更して、増税分を価格に転嫁した。