昨年7月に施行された原発の安全性に関する新規制基準で、地震や津波対策が強化され、テロも含めた過酷事故への備えが義務付けられた。現在、8電力会社の10原発17基が安全審査を申請している。北海道電力泊原発(北海道)、関西電力の大飯原発(福井県)と高浜原発(同)、四国電力伊方原発(愛媛県)、九州電力玄海原発(佐賀県)の審査もほぼ同時期に始まったが、川内原発がその中から抜け出したのは“談合破り”を決断したからだ。
●九電の“談合破り”
「ちょっと乱暴なところもあるが、エイヤっと大きくしました」。九電幹部は規制委の審査会合で、川内原発の地震想定を大幅に引き上げる方針を表明した。規制委の事務局である原子力規制庁の審査官は「御社の哲学、思想が見えて安心した」と評価。川内原発の優先審査入りが事実上決まった。
昨年7月に施行された新規制基準は東電福島原発事故を踏まえ、科学的に考えられる最大規模の地震、津波対策を求めたが、想定を引き上げると追加の耐震工事が必要になるため、電力会社は引き上げを渋った。そこで電力各社は、電力中央研究所で想定の見直しを行い、その数値を規制委に報告することにした。これがいわゆる「地震想定談合」と呼ばれるものだ。しかし、この想定値が規制委の了解を得られなければ、審査はストップする。
九電は規制委の意向に沿って最大の地震の揺れ(加速度)を540ガルから620ガルへと引き上げたが、その理由を同社幹部は「すべて(規制委に)反論していたら再稼動が遅くなる」と説明しているが、背景には同社の厳しい財務体質があったとみられている。
●忍び寄る債務超過の危機
原発への依存度が高かった九電の14年3月期連結決算における最終損失は、1250億円の予想であり、3期連続の赤字になる。過去の利益の蓄積である利益剰余金(単体)が、3月末にゼロになる見通しだ。火力発電用の代替燃料費がかさみ、九電は昨春、企業向けで11.94%、家庭向けで同6.23%の値上げを実施したが、値上げ後も大幅な赤字が続くのは、原発の早期再稼動を見込み、値上げ幅を縮小したからだ。
2月中旬、北電は電気料金の再値上げを申請したが、昨年9月に値上げをして半年もたたないうちの再値上げだ。同社の川合克彦社長は「債務超過の可能性も否定できない」と語った。
一方、九電の瓜生道明社長も「(再値上げの)検討を進めざるを得ない」と説明しているが、値上げを申請してもすんなり認められる保証はない。原発の再稼動が進まず、再値上げもままならないとなると、経営が傾きかねず、それこそ北電同様に債務超過という事態が現実味を帯びてくる。これが“談合破り”を決断した最大の理由といわれている。
ちなみに九電は、今夏までに川内原発の2基(合計出力178万キロワット)が再稼動すれば、夏の電力需要の1割程度は賄えると計算している。