莫大な金額だが、波及される効果の対象を招致委員会は
「投資や消費→生産→付加価値(所得)→消費→生産→付加価値(所得)までの第2次間接波及効果」
としている。どこまで波及するかは、はっきり言って未知数だ。期待値としての数字であるということを前提にすべきだろう。
「波及効果ですから3次、4次というレベルまで考えることは可能ですが、そこまでいくと本当にオリンピック効果なのかわからなくなるので、2次波及効果までで算出しました。一方、需要増加額は直接的な投資額になります。まず直接投資があって、そこで消費されたり投資されたりするようになって波及効果が生まれるという考えです」(東京都スポーツ振興局招致推進部)
需要増加額の内訳は施設整備費3557億円、大会運営費3104億円、その他5578億円となり、総計で1兆2239億円と試算している。
このうち、9669億円が東京都で計上されている。しかも施設整備費の3557億円は東京都だけであり、大会運営費の約95%に当たる2951億円も東京都だ。東京で開催するオリンピックだから当然といえば当然だが、需要増加、特にインフラ等の公共事業の需要増という点では東京都が最も利益を得るわけだ。
猪瀬直樹東京都知事は「復興五輪」「被災地の復興に弾みをつけたい」などと発言しているが、被災地の復興とはインフラの復旧にほかならない。建設業の人材不足はいまでさえ被災地復興のボトルネックとなっているのに、五輪によってその人材不足がさらに加速することになる可能性は大いにある。しかも国土強靭化という全国的なインフラ整備事業もあるのだ。こうなると日本全国で人材の取り合いになる。
「国土強靭化政策でこれまで他県から協力に来てくれていた業者から、4月以降、契約更新を断られるケースが増えています。特にトラックなどの輸送貨物が足りていません」(福島県南相馬市で建設業を営む石川俊氏)
首都圏から被災地への復興人材供給に影響
国土交通省によると、建設業許可業者数は13年3月末時点で46万9900で、前年同月比で2.8%の減少となったという。世代別で見ると、建設業就労者の34%が55歳以上で、29歳以下の若者はわずか11%にとどまり、高齢化も進む。そして何より都道府県別の業者数では東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の首都圏で11万1561業者に上り、全体の約23.7%を占めている状況にある。
これまで首都圏からの出張などで復興事業の人手不足を補っていたが、その供給が五輪事業によってストップされてしまう可能性が大きくなる。
厚生労働省は復興工事の急増で、建設業界の人手不足が深刻な問題となっていることから、全都道府県のハローワークで、建設業への職業斡旋の強化に乗り出している。東京五輪開催に向けたインフラ整備が進めば、全国的に人材の確保が難しくなることが予想されるため、さらなる就業者の拡充が急がれるが、6月に斡旋強化に乗り出したばかりの厚労省としては「まだ早い」(職業安定局建設・港湾対策室)という認識のようだ。
復興も五輪開催もネックとなっているのが人手だ。人材不足をどうするか。事業者にとって、復興も強靭化もオリンピックも、その目的が達成されれば事業がなくなるのではという懸念がある。その先も仕事の見通しがなければ、長期的な展望も人材育成もできない。それこそ再び政権が替わり「コンクリートから人へ」というスローガンが叫ばれては、事業拡大などできるはずがない。
政権交代が起きても必要な公共事業を無駄なく、安定的に続けていくためにどうするべきか? この議論を成熟化させるために、東京五輪をひとつの契機としていくことが求められている。
(文=島田健弘/ライター)