(文=小黒一正/法政大学経済学部准教授)
欧米等では、2060年程度までの財政の長期試算を公表していたが、日本では23年度程度までしか公表していなかった。このような状況の中、今年4月28日開催の財務省・財政制度等審議会にて、財務省(正確には審議会メンバーの起草検討委員)が「財政の長期試算」(概要:http://goo.gl/NnDdUW、資料:http://goo.gl/SSt2Rq)を初めて公表し、一部の専門家の間やメディアで話題となっている。
上記の資料では成長率や金利のシナリオが異なる場合の試算結果を公表しているが、例えば、「実質成長率1.0%」「名目成長率2.0%」「金利3.7%」のケースで、現在224.3%(13年)である公債等残高(対GDP)を60年度に100%まで低下させるケースでは、21年度以降に必要とされる恒久的な収支改善幅(対GDP比)は11.67%になるとしている。
「11.67%」という数値を聞いてもピンとこないが、GDPを現在の値に近い500兆円で換算すると、歳出削減や増税で約60兆円の収支改善が必要となる。消費税率1%の引き上げで増える税収は約2.5兆円であるから、60兆円は消費税率24%分の税収に相当する。この収支改善幅は、消費税率がすでに10%まで引き上がっていることを前提にしているため、もし歳出削減(社会保障の抑制が中心)が不十分な場合、消費税率は34%にまで引き上げる必要があることを示唆する。つまり、財政を安定化させるには、今回の増税をはるかに上回る、大きな痛みを伴う改革が必要となる。
●公債等残高(対GDP)は約500%との試算も
このような数値を聞くと、多くの国民にとって、もはや現実的な世界の話として受け止めることは難しいだろう。しかし、このような事実は、内閣府が今年1月20日に公表した「中長期の経済財政に関する試算」(以下、「中長期試算」という)の延伸から簡単に確認できる。
上記図表には、赤線と黒線を1つのグループとして、上から順番のグループ毎に、(1)国・地方の基礎的財政収支(対GDP、左目盛)、(2)国・地方の財政収支(対GDP、左目盛)、(3)国・地方の公債等残高(対GDP、右目盛)の実績・予測を描いている。このうち、黒線は内閣府の「中長期試算」(参考ケース)、赤線は参考ケースを延伸した筆者の簡易推計である。また、財政審の長期試算と同様、黒線(内閣府の予測)も赤線(筆者の予測)も、推計の前提として、14年4月や15年10月の消費税率引き上げを織り込んでいる。このため、15年度頃まで、国・地方の基礎的財政収支や財政収支はある程度は改善する。