無論、格安スマホには弱点も多い。最も多く指摘されるポイントは、現在のLTE対応スマホと比べ通信速度が200kbps前後とかなり遅く、一部に高速通信可能なサービスもあるものの、その容量が非常に限られているなど、制約が多いことだ。これは、通信容量を多くの人に分割することで低価格を実現しているというSIMカード側の要因と、LTEに対応しているハードを低価格では実現できないというスマホ側の要因の2つが影響している。
そしてもう1つのポイントはサポート面だ。そもそも格安スマホは、SIMカードはMVNO、スマホはハードメーカーと、サポート先が異なっており、大手キャリアのようにショップでまとめてサポートしてくれるわけではない。不具合の対処からOSのアップデートに至るまで、基本的にはすべて自分で対処しなければならないのだ。格安スマホはスマホに馴染んでいないシニアへの販売が好調なようだが、サポート面の弱さを考えると、少なからず疑問を抱く部分があるのは事実だ。
●大手キャリアが格安スマホに追随しない理由とは
格安スマホの弱点は、裏を返すと大手キャリアの利点にもつながっている。つまり高額でも高速・大容量なデータ通信ができる点や、充実したサポートが受けられる点などが、大手キャリアのメリットとなっている。こうしたメリットが武器となっていることから、キャリア各社は現時点において、格安スマホに対抗し積極的に料金の値下げに取り組もうという様子を見ることはできない。
例えばKDDIの田中孝司社長は、4月30日の決算発表の場で「価格の訴求ではなく、価値の訴求を進める」と話しているほか、NTTドコモが新料金プランを打ち出したことに対しても、VoLTE、(LTE 回線を使って音声通話が行える技術)の準備が整うまで静観する構えを見せており、積極的な料金施策を打ち出そうという様子はない。
また、注目を集めたNTTドコモの新料金プランについても、必ずしも値下げにつながる要因ばかりではない。例えば、相手先を問わず国内の通話が定額でできる「カケホーダイ」は、基本料金がスマホで月額2700円。だがNTTドコモの音声ARPU(携帯電話における加入者一人あたりの月間売上高)は、今年3月時点で1370円。つまりカケホーダイは現在の音声ARPUより1300程度円高く、カケホーダイへの移行は多くのユーザーにとって、むしろ値上げの要因となる可能性が高いのだ。
このように、キャリア各社は急激な収益の低下を避けるためにも、現在の料金の大幅な値下げに取り組む可能性は低く、あくまで高品質のサービスを高価格で提供するビジネスを継続すると見られる。もっとも、大手キャリア各社は回線を持たないMVNOと異なり、自身で全国各地にLTEなど高速通信のインフラを整備するため莫大な投資をしている。さらなる高速化ニーズに応えるべく投資を続けるためにも、高収益体制を維持する必要があるというのも事実であり、単に「儲かっているから安くすればよい」とはいえない部分もあるのだ。
しかしながら格安スマホの側も、いつまでも「安さ」だけを売りとするだけでなく、サービス面に力を入れ、キャリアの牙城を狙ってくる可能性は高い。実際、フリービットのように、実店舗を構えながらも、通話はIP電話となるがスマホとSIMカードによる通信サービスを格安で提供する企業も現れてきている。今年問題となったキャッシュバック競争のように、キャリア側がユーザーを無視した競争施策に明け暮れるようであれば、格安スマホに足元をすくわれる可能性もないとは言い切れないだろう。
(文=佐野正弘/ITライター)