この2つの企業はスマートフォン(スマホ)やタブレットの市場拡大を牽引してきた。アップルはiPhone、サムスン電子はGALAXYを稼ぎ頭に据え、スマホ市場でのトップを競ってきた。スマホやタブレットの登場は、ノキアなど旧来の携帯電話メーカーのシェアを急速に奪い、競争環境を激変させた。そして、それらは新しいライフスタイルも提供した。
では、なぜアップルとサムスンに成長期待を持てないのか。それはスマホ以外の成長分野が見当たらないからだ。アップルの収益はiPhone頼みだ。iPadの販売が増えればノートPCに代わる新しいライフスタイルの創造も可能になると期待されてきたが、肝心のiPadの販売が伸びていない。一方、サムスンは小米科技(シャオミ)など中国メーカーの台頭もあり、モバイル端末事業の不振が減益につながっている。
●カリスマ経営者の不在
そして、市場をつくり出すほどの強烈なリーダーシップで経営を牽引してきたカリスマ経営者の不在が経営を迷走させている可能性は無視できない。アップルの場合、創業者のスティーブ・ジョブズが11年に世を去って以降、かつてiPhoneを世に送り出した時ほどの強烈なインパクトを世間に与えられてはいない。サムスンの場合、中国メーカーとの競争激化の中でイ・ゴンヒ会長が経営の最前線から離れたことが、業績失速に追い打ちをかけているようだ。
一方、中国に目を向けると同国内電子取引最大手であるアリババ集団は米ニューヨーク証券所に過去最大規模での上場を計画中だ。アリババはジャック・マーが創業した企業であり、米国での買収戦略を展開するなど破竹の勢いで成長してきた。いうまでもないが、そこにはサラリーマンとしての生き方は見いだせない。あるのは、ただ貪欲に成長を追い求めてひたむきに戦略を練る軍師の姿だ。
和を尊ぶ日本では、強烈な個性は組織の中で疎んじられがちだ。しかし、市場のサイクルは短期化し、競争は激化している。強みを武器に成長分野を見つけなければ、世界最大の消費市場に支えられた中国企業に飲み込まれてしまいかねない。成長は企業自らが生み出すものであり、政府がもたらすものではない。自動車やインフラなどを中心に日本企業の技術力はいまだ競争力を保っている。この力をより高い成長のエネルギーにするべく、今こそ経営者の力量、リーダーシップを見直す時だろう。経営者は成長を目指しリスクをとる、それを決断するマインドなくして競争優位性としての技術力も活用できないと心得るべきだ。
(文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授)