10年にも尖閣諸島をめぐり反日デモが起きたが、1カ月で収まり自動車の販売に大きな影響はでなかった。だが、今回は明らかに違う。日中双方が引くに引けない領有権(領土)をめぐる対立だ。偶発的な軍事衝突に発展する可能性まで指摘されている。
前出のアナリストは「今後、日系メーカーは前年比2~3割の販売減少が続き、日中間の緊張がさらに高まれば、半分以下に落ち込むことになる。欧米メーカーにシェアを奪われる地獄絵となるだろう」と予測する。
●ゴーン社長は、3度目も救世主となれるか?
日本の自動車メーカーは中国事業の抜本的な見直しを迫られる。なかでも、中国事業に軸足を移していた日産は深刻な事態だ。
カルロス・ゴーン社長は10年間で2度、日産の救世主になった。1回目は99年から。存亡の危機にあった日産に、仏ルノーから送り込まれたゴーン社長はV字回復を成し遂げた。
2度目は、08年のリーマン・ショック後。ハイブリッド車ではトヨタ、ホンダの後塵を拝し、日米欧の先進国市場で敗北を重ねていた。もはや日産に勝ち目はないといわれる中で、ゴーン社長は起死回生策として中国市場にシフトした。
沈む日産を救ったのは中国市場だった。日産の中国市場における販売台数は、03年(暦年)には9万4000台にすぎなかったが、11年(同)には125万台に急伸し、100万台の大台を突破した。12年3月期決算では、グローバル販売台数484万台のうち、4台に1台以上を中国で売るまでになり、日本での販売台数(65万台)を大きく上回った。同期の営業利益(5260億円)のうち、中国を含めたアジアが1818億円で営業利益の35%弱を稼いだことになる。日本のそれ(855億円)の2倍だ。
12年には中国で135万台を販売する予定だった。日産にとって中国市場は文字通りドル箱となっていた。
メリルリンチ日本証券の推定だと、13年3月期決算(今期)の予想純利益に占める中国比率は、日産が25%で自動車メーカーでは最も高い。トヨタ自動車21%、ホンダ16%だ。中国に強い自動車メーカーほどリスクが大きくなる。
ゴーン社長が中国市場に賭けた起死回生策で、日産は息を吹き返した。だが、反日感情の高まりで日系車の販売が失速。日系車の売れ行きが早期に回復する見込みはほとんどない。