では、何が日系企業の魅力を下げているのだろうか。中国でも教鞭をとる帝京平成大学の渡部卓教授は次のように説明する。
「一昔前なら高い生産性や効率性など日系企業から学ぶことが多く、相対的に給与水準も高かったので就職先としての魅力があった。しかし、多くの日系企業はグローバル化と言っても名ばかり。研修体制も不十分で伝統的な人事労務管理が続き、リーマンショック後は給与も増えない。これらの状況が学生たちを失望させている」
渡部教授は、西北工業大学(陝西省)、瀋陽大学(遼寧省)、上海師範大学などの客員教授を歴任し、現在は武漢理工大学管理学院(湖北省)でビジネス心理学などの講義を年に数回行っている。授業が終わると学生たちと交流するが、その際に学生たちが口にするのが、日系企業に就職した卒業生たちから聞く不満の声だという。以前は聞かなかった内容だ。
「反日的な流れに惑わされているとは思えません。歯に衣を着せぬ中国人学生たちが声を大にしているのは、コスト削減で教育研修費を削るなど、日本企業の人材開発が欧米企業に比べ劣っているという点です」(同)
欧米企業はヒューマンマネジメントに優れ、コーチングやメンタル問題にまで対応している。雇用維持の面では安心できるが人の育て方が下手な日系企業と、解雇は当たり前で継続雇用の保障は望めないが能力に合わせた人事戦略を講じる欧米系の企業。この差を中国人学生たちは敏感に感じとっているのだろう。こうした状況が、日系企業への就職を嫌う要因になっている。
●うつ病の中国駐在員急増
中国の学生たちが日系企業を敬遠し始めた理由としては、実は日系企業の中国駐在員たちが抱えるメンタル問題も大きい。大気汚染や生活習慣の違いなどを嫌い、駐在員に派遣されることを望まない日本人社員が多く、実際に駐在しても中国の商慣習や環境に適応できず駐在員自身や家族がうつ病にかかるケースも多く、帰国してからもリハビリが必要な駐在員の数は少なくない。