タカタは、商品の欠陥を示す根拠がなく、全米でのリコール実施よりも多湿地域でのリコールが優先されるべきとしているが、動作不良が死亡事故につながっていることを考えれば、この対応には首をかしげざるを得ない。そのため、自動車メーカー、消費者、米国当局も不信感を募らせている。タカタはすでに世界第2位の自動車安全部品メーカーであり、自社の技術、品質に関する欠陥については、その気になれば詳細な分析を行うことは可能だろう。
こうした「当然の対応」が取られない原因には、オーナー企業が抱えるガバナンス上の問題が影響していると考えられる。特に、同社の会長兼CEO(最高経営者)である高田重久氏は声明文を発表するものの、公の場で自ら状況の説明は行っていない。
企業の経営が危機に直面した際、経営者は自らの行動をもってその進むべき道筋を示す必要がある。そこにリーダーシップの本質があり、それなくして企業の成長はあり得ない。同時に、昨今注目を集めている企業統治(コーポレートガバナンス)の基本は、成長戦略を客観的にモニターし、評価・改善を通して企業価値を高めることにある。そう考えると、同社のガバナンスが機能していないことは明らかだ。
タカタのエアバッグ問題は、今年に入ってから明らかになったことではない。すでに2000年代前半に生産された車種がリコールの対象となっている。問題が長期化していることは、経営者の視点が取引企業やユーザーより、自己保身にあることを示している。加えて、各自動車メーカーにとって他のメーカーのエアバッグでタカタの製品を代替することも容易ではない。タカタの対応が遅れることは、自動車業界全体のビジネスに影響する。東日本大震災の折に明らかになった通り、日本の製造業はグローバルに製品を供給しており、自社の論理・判断が海外から見て合理的である保証はどこにもない。
●オーナー企業の負の側面
今回の問題は、オーナー企業の負の側面をあぶり出した。オーナー企業であるがゆえに大胆な戦略が実行しやすいことは事実だろう。この良い例はサントリーホールディングスによる米ウイスキー大手、ビームの買収だ。迅速かつ大胆な決断は、高い成長力の源泉である。
一方、タカタは、オーナー家の経済的利害を優先し、社会的に見ると非合理的な意思決定を下していると考えられる。
経営者のプライドや立場は、時として合理的な判断を阻害する。一つのパーツの不具合が関連企業、消費者に与える影響は計り知れない。世界マーケットでの競争がし烈化しているだけに、企業にはより繊細かつ公平な視点での経営とリスク管理が求められる。
(文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授)