海外で主流となっている、安くて速い電話線を使ったデジタル高速通信、ADSL(非対称デジタル加入者線)を国内に初めて導入したのも千本氏。孫氏のソフトバンクとヤフーがADSLに参入したのは、その後だ。
パソコン並みの機能を持ったスマートフォン(高機能携帯電話)が普及すると、「無線インターネット通信は高くて遅い。僕がやればもっと安く速くできる」とばかりに、07年に携帯電話事業、イー・モバイル(11年にイー・アクセスと合併)を立ち上げた。データ通信サービスに続き、音声通話サービスも始めた。携帯電話事業への新規参入が、千本氏にとって大きな転機となった。
基地局の整備には莫大な資金が必要になる。資金のスポンサーになったのがゴールドマン・サックス(GS)。GSから3600億円の資金を調達して基地局を整備していった。イー・モバイルの電波を中継する基地局の大きさは他社の10分の1で建築費は10分の1以下。だが、性能は遜色がない。コストが安いから、創業からたった2年で全国の85%をカバーできた。
●ソフトバンクの狙いはやっぱりLTE
「安くて速い」が、千本氏が新しいビジネスに取り組む際のキーワードだ。「僕ならもっと速くできる」と言って、12年3月、次世代高速携帯電話サービスLTEを始めた。LTEとは、携帯電話向けの新しい通信方式で、最大のウリは速さ。現在の方式の数倍から10倍の速度で、処理できるデータ量も現在の3倍程度となる。
今年6月末にはLTE向けに周波数700メガヘルツ帯の電波の割り当てを受けた。700メガヘルツ帯は室内や山間部でも電波が届きやすいとされ、プラチナバンドと呼ばれる。700メガヘルツ帯とLTEを組み合わせることで高速・大容量を可能にした。
これでイー・アクセスを売却する条件が整った。携帯電話事業に参入した当初から、スポンサーとなったゴールドマン・サックスのイグジット(投資資金の回収)は既定路線だった。
ソフトバンク、楽天、KDDIの3社が買収に名乗りを上げ、結局、ソフトバンクが3倍以上の高値で落札した。
ソフトバンクにとってイー・アクセス買収の最大の狙いは、「アイフォーン5」が1台あればノートパソコンや携帯ゲーム機、アイパッドなど複数の端末でインターネットが利用できるテザリングだった。イー・アクセスはLTE用として1.7ギガヘルツの帯域を持っている。高速データ通信に活用でき、NTTドコモやKDDIに匹敵する携帯ネットワークの構築も夢ではない。