こうして事業の安定性と財務の健全性、すなわち「バランス経営」を確立した同社が、記者たちが無理だと目をむいた売上高4兆円乗せを予定通り達成したのは、必然といえよう。
●規模拡大から持続的成長へ
98年の巨額赤字転落を教訓に「規模拡大から持続的成長へ」舵を切った同社は、以降「3つのバランス経営(成長性、健全性、収益性)」に徹してきた。その具体策が業界内で飛びぬけているといわれる「事業の選択と集中」だった。これについて山西氏はかつて「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/12年1月31日号)の取材に対し次のように答えており、「組織の三菱」らしい用意周到さがうかがえる。
「選択と集中は『強い事業をより強く』が目的だ。そのため強い事業へ人やカネを集中的に投資してきた。その結果『弱い事業』が自然と淘汰された。撤退した携帯電話事業の人材を自動車機器事業へ配転することでカーナビ事業を強くしたのが一例だ。結果的に強くなったのではなく、強くしたい事業の綿密な計画を立てた上で弱い事業を畳んでいった」
では、次の「5兆円乗せ」に向けて死角はないのだろうか。証券アナリストは「もちろん懸念はある」と、次のように説明する。
14年度決算で予想している営業利益2750億円のうち、45%を産業メカトロ部門で稼ぐ計画になっている。130億円の営業利益を予想している情報通信システム部門も、人工衛星「ひまわり」を手掛けるなど公共事業への傾斜が激しい。公共事業は国の政策や政府の予算に左右されやすいので、一見安定的に見えながら継続性に欠けるので、必ずしも安定的とはいえない。したがって「産業メカトロ部門に過度に依存しない事業ポートフォリオをいかにして構築するかが、5兆円乗せの課題」と指摘する。
「飛躍がない代わりに失敗もない地味な成長」(電機業界関係者)ともいわれる三菱電機。次にどんな話題で脚光を浴びるのだろうか。
(文=福井晋/フリーライター)