08年度以降、売り上げ3兆円台を上下動している同社の4兆円乗せ発言に、記者たちが疑問を抱くのも当然だった。「何か秘策があるのか」と詰め寄られても、山西氏は顔に笑みを浮かべるのみで、その根拠を明かすことはなかった。
ところが、それから1年後の昨年4月28日、同社が発表した13年度連結決算は売上高が6期ぶりの4兆円(4兆544億円)に乗っていた。売上高の前年度比伸び率は、実に13.7%を記録した。
悲願の4兆円乗せを果たしたのは、6部門が揃って増収を達成したからだった。特に過去最高を記録した重電部門と産業メカトロ部門の売上高が大きく貢献した。重電部門は電力事業、交通システム事業などの好調で、売上高は前年度比12%増の1兆1800億円。産業メカトロ部門はFA事業と自動車機器事業の快走で売上高は同18%増の1兆987億円だった。このほか、家電部門も国内外の業務用空調機器事業の好調などで4兆円乗せに貢献、売上高は同15%増の9443億円だった。
山西氏の強気発言はホラではなかった。また秘策もマジックもなかった。業界内で「引き算経営」と揶揄される「事業の選択と集中」の帰結だった。同社関係者は、これを「バランス経営の成果だ」と胸を張る。
●巨額赤字転落受け、事業の選択と集中を徹底
大手電機メーカーの中で、同社ほど地道に事業の選択と集中を進めてきたメーカーはないといわれる。
1990年代後半、他の大手電機同様に、同社も半導体事業で大打撃を受けた。96~97年度の2年間で半導体部門は累計約1500円の最終赤字を計上し、その影響で97年度の連結決算は1000億円を超える巨額最終赤字に陥り、有利子負債も1兆7700億円まで一気に膨らんだ。
そこで同社はまず、収益の変動幅が大きい事業や製品を切り離す事業リストラを断行した。99年にはパソコン事業から撤退。03年には半導体のDRAMとシステムLSIの2事業をそれぞれ、エルピーダメモリ(現マイクロンメモリジャパン)とルネサステクノロジ(現ルネサスエレクトロニクス)へ切り離した。
次に08年には、携帯電話端末事業と洗濯機事業からも撤退した。さらに事業ポートフォリオを組み替え、競争は激しいが製品の差別化などで安定的な収益が得られるB to B(法人向け事業)分野に経営資源を集中する構造改革を地道に実行していった。
その一方で財務体質改善も着々と進め、10年度のネットキャッシュ(現預金と短期有価証券の合計額から有利子負債を引いた金額)のマイナスは、ピークだった97年度と比べて約9分の1に縮小した。