その話題のやきそば弁当とは、東洋水産が北海道・小樽工場で製造、北海道限定で販売しているカップやきそばである。なぜ「弁当」なのか正確な理由はわからないが、麺の戻し湯で溶く粉末スープが付いているからだろうと筆者は勝手に理解している。ちょうど戻し湯の必要量が平均的なマグカップの容量と同じなので、カップ1杯分のスープも同時に楽しめるというわけだ。
やきそば弁当には普通サイズ(132g)、大判サイズ(173g)、さらに大きい「でっかいやきそば弁当」(258g)の3種類があるほか、中華風醤油、塩、たらこ味、ちょい辛、あんかけ風がある。ソースの味は基本的に甘めで、1975年の発売以来北海道では絶大な人気を誇るロングセラー商品となっており、道内のスーパーならどこでも売っている。ガラナ(ドクターペッパーに似た炭酸飲料)やソフトカツゲン(乳酸菌飲料)と並んで、北海道出身者が脊髄反射的に反応するソウルフードである。
北海道限定なので、本州以南の小売店では基本的に売っていない。青森県の一部で販売しているという説はあるが、東洋水産によれば「北海道のみ」だといい、同社の自社オンラインショップでも扱っていない。小売店への配慮から取り扱い商品はギフト製品などごく一部に限定しているためだ。ただし、東京にあるアンテナショップでは購入が可能だし、アマゾンで箱買いすることも可能だ。筆者宅でも欠かさずというほど頻繁ではないが定期的にアマゾンで箱買いしている。
ペヤングの騒動拡大は、ペヤングに「信者」と呼んでもいいほどの超コアなファンが多数存在していることも原因の一つになっていると思われるが、頭数こそペヤング信者にはかなわないものの、やきそば弁当にも信者は多い。ネット上で話題になっているのも、この信者たちの存在ゆえだろう。
そこで、本当にやきそば弁当が関東でも販売される予定があるのか、東洋水産に確認したところ、「その予定はまったくない」(同社CSR広報部)という。
東京進出説が広がる理由
ではなぜ東京都内で目撃されているのか。考え得る可能性としては、(1)やきそば弁当を扱っている問屋の一部から東京の小売店が仕入れた、(2)アマゾンで仕入れた、(3)東京にある北海道のアンテナショップから仕入れた、の3通り。製品は基本的に問屋を通して小売店に卸される。「北海道限定」を維持するには問屋の協力が欠かせない。基本的に問屋とは、特約店契約などのかたちで販売先を道内の小売店に限定する契約になっているはずで、このこと自体は合法だ。
「独占禁止法違反を問われるのは、各問屋の販売地域を限定することによって、メーカー側が価格維持効果を狙っているような場合に限られる」(独占禁止法に詳しい上山浩弁護士)
無論、契約に違反する問屋がいれば商品は他地域にも流れるが、あまりおおっぴらにやれば特約店契約そのものを解除されてしまう。アマゾンやアンテナショップで仕入れた可能性もあり得るが、経済合理性を考えると疑問符が付く。アマゾンの箱売りは普通サイズの12個入りが2100円で1個あたり175円(消費税込、以下同)辺りが最安値価格帯。東京駅前にある北海道のアンテナショップが183円。
一方、スーパーでは「一平ちゃん夜店の焼そば」(明星食品)や「日清焼そばU.F.O.」(日清食品)が150円前後で売られている。やきそば弁当をアマゾンやアンテナショップで仕入れて販売し利益を出すためには、かなり割高な価格に設定する必要がある。実際に大手スーパー数カ所のカップやきそばの棚を見てみると、現在置かれているのは一平ちゃんとUFOがメインで、その他は「スーパーカップ大盛りいか焼きそば」(エースコック)やPB(プライベートブランド)商品などといったところ。ペヤングが抜けた分を他社製品がそっくり埋めているという印象はなく、なんとなく棚全体がスカスカ。ラーメンやうどんなどの汁麺系のカップ製品で部分的に埋めているという印象だ。
さまざまなルートを通じごく部分的に流通することはあっても、メーカー自身が本州以南での販売はないと言っている以上、大々的に流通する可能性はないと見ていい。やきそば弁当東京進出説は、どうやらファンの願いが生んだ都市伝説に終わりそうだ。
(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)