ただ気になるのは、そもそもなぜガイドラインの策定・施行時期に合わせてドコモ光がサービスの提供を開始できるのかという点だ。そこには、NTT、ドコモ、総務省の出来レースが存在しているのではないかという疑問が浮かび上がってくる。
一般的に、サービスの卸業務というのは公平・公正な競争状態を担保するために業界内でさまざまなルールが決められ、そのルールに則って事業者間で取引開始に向けた種々の契約の取り決めが行われるものであり、その調整には時間を要するものだ。しかし、ドコモ光のサービス提供のタイミングをみると、サービスを卸すNTTが、数ある通信事業者の中で同じNTTグループ内にいるドコモとの取引条件の整備を他社より優先して秘密裏に進めてきたからにほかならないのではないか。NTTがドコモを優遇して、業界内でドコモが有利な状況で営業活動ができるように仕込んでいると疑われても仕方がないだろう。NTTが昨年5月に行ったサービス卸に関する説明会には全国から100社以上の通信事業者の参加があったものの、参加者からは価格設定に対して不満が噴出しており、ドコモ光のサービス内容次第では全国の通信事業者が再び反発することも考えられる。
また、NTTと総務省は非常に近い関係にあることから、今回のガイドライン策定についても、ドコモ光のサービス提供開始を妨げない内容にした出来レースだと考えることもできる。ガイドライン案に寄せられるパブリックコメントが、ガイドラインの決定にどの程度の影響を与えるかは注意深く見ていく必要があるだろう。もしもドコモ光の登場によって健全な競争状態が破壊されることになれば、携帯電話業界の成長は止まり、サービス品質の低下や商品力の低下といった衰退は免れない。
●ドコモ光に潜む、もうひとつの懸念材料
ドコモ光に対する懸念はこれだけではない。契約者にとっても業界にとっても不利になる条件が、もうひとつあるのだ。
固定回線の契約者の中には、IP電話を利用している人もいると思うが、日経BP社が運営するIT系ニュースサイト「ITpro」の記事によると、NTTは同社提供の固定回線を使用している契約者に対して、現在の契約IDと電話番号を引き継ぎながら契約形態だけをドコモ光に変更する「転用」を認めたという。これは、固定回線におけるナンバーポータビリティともいえるもので、現在「フレッツ光」(光でんわ)を使用している契約者は、解約料や工事費が発生しないかたちで固定回線とドコモのセット割を利用することができる。
しかし、この転用という制度には大きな落とし穴がある。それは、同一番号が引き継げる転用はフレッツ光からドコモ光に契約変更する際の1回のみという制約があるというのだ。表向きの目的は、キャッシュバックなどの特典を目的としたユーザーが、転用を繰り返さないように歯止めをかけることだと受け取れるが、その実情は契約者をNTTグループ内に囲い込む思惑がはっきりしており、健全な競争を大きく妨げるものだといえる。そして、契約者にとっては一度ドコモ光に契約を変更すると、さらに良いサービス事業者に変更しようとした際に違約金が発生したり、電話番号の変更を余儀なくされたりといった不利益が考えられ、この転用もNTTとドコモが優位に契約者を獲得できる、「提供者の都合だけを考えた施策」ということができるだろう。
このようにドコモ光は、ガイドラインの施行も待たず、業界内でのコンセンサスを得ることもなく、NTTグループが契約者の囲い込みと他社からの顧客獲得を優位に進めたいという身勝手な事情で“見切り発車”しようとしている。今後、さまざまな懸念点に対する業界の強い反発は必至の様相であり、それを受けてサービスの内容変更や条件の見直し、撤廃などが行われると、契約者はそれによる不利益を被る可能性は高く、ドコモ光をめぐる状況はさらに混沌の度合いを増す恐れも考えられる。サービスの確実性が担保されるまでの間は、状況を静観するのが賢明だといえるのではないだろうか。
(文=編集部)