しかし現実的には、シャープの事業環境は厳しかった。黒字転換の主役となった液晶事業は中国のスマホ向け液晶パネルの先行き不透明感、太陽電池事業は太陽電池パネルの国際的な需要後退などの不安要素が強まっていた。14年3月末現在の自己資本比率は8.9%。財務体質も、ぼろぼろのままだった。
●競合の安値攻勢
特に営業利益の4割近くを稼ぐ主力の液晶は事業基盤が弱く、電機業界内からは「シャープが位置付けるような『経営再建の主軸』になる要素はどこにもない」との声さえ聞かれた。
シャープが液晶事業の中国シフトを強めたのは12年頃からといわれている。米アップルに収益を依存するリスクを減らすのが目的だった。同社は「スマホの世界市場は17年度に中国メーカー勢のシェアが40%を超える」との市場予測データなどを当てに、中国のスマホメーカーへ営業攻勢をかけたといわれる。そのかいあってまず小米との取引に成功、中国市場開拓の橋頭堡を築いた。13年度の中国メーカー取引社数は5社を超えたとみられる。
10年に設立したばかりの小米は、当時は小さな新興スマホメーカーだった。このため、小米は当初商談を進めていたジャパンディスプレイに取引を断られ、困っていたところへシャープが救いの神のように現れた。シャープから液晶パネルの供給を受けた小米はその後、まさに昇竜の勢いで成長。14年には中国で首位、世界で第3位のスマホメーカーに上り詰めた。小米は液晶パネルの70-80%をシャープから調達し、小米の急成長と共にシャープのスマホ向け液晶販売も急拡大した。しかし、両社の共存共栄関係は長続きしなかった。
昨年11月以降、小米からの受注量が急減した。それをシャープは「小米の在庫調整に伴う一時的な需給調整。受注はすぐ回復すると、能天気に構えていた」(半導体業界関係者)という。小米からの受注急減は、競合の安値攻勢が原因だった。シャープが小米との関係に安住していた頃、急成長した小米の受注を獲得しようとジャパンディスプレイが安値攻勢をかけたのをはじめ、韓国LGD、台湾AUO、さらには中国国内の中小液晶パネルメーカーが一斉に安値競争を展開、小米との取引を増やしていたのだった。
「シャープは、その動きを察知していなかった。それが前述の能天気な判断につながっている。鈍感というほかない」(同)
このずさんな事業管理が如実に表れたのが、小米が今年1月15日に新製品として発表した低価格スマホ「Mi Note」だ。小米は同製品の液晶パネルをシャープとジャパンディスプレイから同量で調達したといわれている。そしてジャパンディスプレイは小米に食い込むため、1枚当たり20ドル強だったスマホ用液晶パネルを、10ドル台に値下げしたともいわれている。
小米はさらにLGD、AUO、中国国内メーカーなどからの調達量も増やしているとみられる。小米は15年のスマホ出荷量を前年比約1.5倍の1億台に増やす計画だが、「増加分の液晶パネルは、基本的にシャープ以外から調達する考え。その結果、15年の小米へのシャープの供給シェアは、従来の70-80%から50%以下へ一気に低下する見込み」(同)だ。
●「液晶で経営再建」に暗雲
「液晶のシャープ」がスマホのような汎用品市場で収益を上げるためには、例えば日本電産のモーター事業のように、競合を寄せ付けない断トツの「世界No.1事業」に育てる必要がある。そのためには競合が容易に追随できない技術力、営業力、事業管理力などが必要になる。