昭和シェル石油(以下、昭和シェル)が前週末比28%高と急伸、約7年ぶりの高値をつけたのをはじめ、出光興産(以下、出光)は一時5%高まで買われ、2.5%高で取引を終えた。その他の大手石油株にも買いが広がり、業種別日経平均株価で石油は全36業種の中で値上がり率首位になった。
この石油関連株の急騰は、前週末の20日未明に流れた日本経済新聞の「出光が昭和シェルを買収」というニュースが火種だった。業界再編加速で石油元売り会社の収益環境が改善するとの期待から、投資マネーが一気に株式市場に流入したのだ。
2013年度の出光の売上高は約5兆円で、業界トップのJXホールディングス(JX日鉱日石エネルギーの持ち株会社、以下JX)の12.4兆円とは倍以上の開きがある。また、業界3位のコスモ石油の3.5兆円、同4位の東燃ゼネラル石油の3.2兆円とは大きな差がない。このため、出光はいわば「相対的2位」の状態だ。3位以下に経営統合や合併などの動きがあれば、すぐに3位に転落する不安定な立場である。
だが、5位の昭和シェルを買収すれば、単純合算で売上高は約8兆円となり、「絶対的2位」となる。JXとの売上高の差も約4.4兆円に縮まり、「業界2強」が固まる。
このため、外資系証券会社アナリストは「買収が成功すれば、石油業界の過当競争が沈静化する」と分析し、期待を寄せる。国内の大手証券会社アナリストも「仮に石油業界がJXと出光・昭和シェルの2強に再編されれば、両社でガソリン販売のシェア64%を占めることになる。寡占化すれば需給調整がしやすくなり、ガソリン価格が安定するので、業界全体の収益環境も改善する」と語る。
買収のニュースがこういった期待を集める一方、当の出光は買収交渉の事実は認めたものの沈黙したままで、昭和シェルも同様だ。このため、憶測が憶測を呼ぶ状態で年が明け、1月半ばを過ぎても「石油業界再編、最終章へ」の期待感や希望的観測だけが独り歩きしている。
だが、業界関係者への取材を進めていくと、その背景には経済産業省の情報操作が見え隠れする。業界内には「日経新聞の速報は経産省のリーク」との声もある。出光は昭和シェルを買収すれば一気に財務体質の悪化を招くこともあり、本気度が疑われている。業界の一部で「官製再編」ともいわれているこの買収交渉は、はたして経産省のシナリオ通りに進むのだろうか。