同社が2月3日に発表した2015年3月期第3四半期(14年4~12月)連結決算の最終損益は144億円の赤字だ。通期も180億円の赤字見通しとなり、2期ぶりの最終赤字転落がほぼ確実となった。
帝人の赤字転落は今期だけではない。同社は直近の7年間、今期を含め4回も最終赤字を記録しており、業績は赤字と黒字の繰り返しだ。浮き沈みの激しいジェットコースター経営といえるだろう。
今回の第3四半期の業績は、原油安で原料価格が想定以上に下がり、営業利益が前期比1.54倍増の246億円に達した。この勢いで、通期見通しも前期比77.6%増の320億円となった。
だが、シンガポール工場、山口県の徳山事業所の閉鎖など、電子材料・化成品事業のリストラを主とする特別損失416億円を計上したために営業利益が吹き飛び、最終赤字に追い込まれる見通しになった。
同社の山本員裕CFOは、2月の決算発表で「構造改革は全体としてほぼ計画通り進捗しており、着実に利益が回復してきている」と余裕を見せ、通期で赤字転落の危機に対する切迫感はなかった。
会場でこの説明を聞いていた証券アナリストは、「同社は過去7年間、中途半端なリストラで黒字と赤字を繰り返してきた。その原因を究明することもなく、ただうわべの数字を並べただけで『構造改革は計画通り進捗』と、根拠のない説明に終始していた」と憤慨する。
成長への道筋が一向に見えてこないこの名門企業は、いつになったらジェットコースター経営から抜け出せるのだろうか。
環境変化に対応できない川上重視意識
同社が416億円もの特別損失計上を明らかにしたのは、昨年11月の15年3月期第2四半期(14年4~9月)連結決算発表の席上だった。
電子材料・化成品事業の採算が海外メーカーとの競争で悪化、シンガポール工場と徳山事業所が閉鎖に追い込まれ、それに伴う290億円の特別損失計上を余儀なくされた。
ほかにも、テレフタル酸ジメチルの生産停止など原料・重合事業で51億円、成長戦略の要に位置づけているヘルスケア事業でも42億円の特別損失を計上している。前出の証券アナリストは「主要事業で軒並み特損を計上するというのは異常で、それに対する緊張感が経営陣になかったのもまた異常だ」と振り返る。
電子材料・化成品事業のリストラは、CDや家電製品の外装材に用いられているPC(ポリカーボネート)樹脂を生産するシンガポール工場(従業員数約200人)と、ポリエステル繊維を生産する徳山事業所(同約100人)の閉鎖が中心だ。帝人の工場閉鎖は約20年ぶりとなるが、特にシンガポール工場の閉鎖が、同社の迷走ぶりを象徴している。
同社は99年にシンガポールに進出、一気に4期までの増産計画を立て、エース級の人材を送り込んでPC樹脂事業を急拡大した。しかし、当時から業界内には「人件費や電気代が高いシンガポールの高コスト体質は、PC樹脂のような付加価値の低い原材料事業には向かない」と懸念する声が上がっていた。
案の定、進出から10年までは好業績で推移していたが、その後は安価な中国製品に追い上げられ、高コストのシンガポール工場製品の競争力は急速に低下する。生産ライン4本のうち、13年10月に1本を停止し、昨年5月にも1本停止した。