世界に遅れる日本のモノづくり 最先端技術で火星移住も!?メイカーズ革命の最前線
「週刊東洋経済 01/12号」の特集は『製造業が根底から変わり始めた メイカーズ革命』だ。
3Dプリンタやレーザーカッターによるデジタルなものづくり。そして、世界中を結びつけるインターネットエコノミーの発展。こうした波がぶつかり合ったところに新しい「メイカーズ(製造者)」が次々に生まれている。その中からは、アップルを引き継ぐような、創造性あふれるスターも育ち始めている。米国のメイカーズに迫った特集だ。
ベンチャー大国・米国を支えるメイカーズ革命
メイカーズの定義とは2種類あるが、ひとつ目の定義は「企業の枠を超えたオープンイノベーション、国境を乗り越えるイーコマースなどウェブの世界で実現したものをリアルワールドにも応用していく人々のこと」、これは米国が誇るものづくり企業・アップルをイメージしてもらえればいい。ふたつ目の定義は「小型3Dプリンタなどのデジタルツールを応用し、ものづくりをする人々のこと」だ。必要なものは自ら作っていこうという「メイカーズムーブメント」の動きにつらなるものだ。「メイカーズムーブメント」はものづくりによる自己の確立を説き、世界中に市民工房「FabLab(ファブラボ)」のネットワークを広げている。
今回の特集では米国発の「メイカーズ・アイドル」というべき3人を紹介している。電気自動車に挑むイーロン・マスク、小さなカードリーダーで決済を変えるジャック・ドーシー、小型カメラで新しい映像の世界を切り開くニック・ウッドマンだ。
3人のなかでもすごいのが記事『新・ものづくりのフロントランナー イーロン・マスク 電気自動車も火星移住も! “先端技術”で壁は壊せる』で紹介されるイーロン・マスクだ。現在41歳の彼は「大学生のとき、将来人類にとって最も重要になるものは何か考えた。答えはインターネット、持続可能エネルギー、そして複数の惑星での生活の3つだった。そのうち持続可能エネルギーのカギを握るのは持続的に発電し、持続的に消費するという点で」電気自動車(EV)を開発。念願のEVベンチャー・テスラ・モーターズは大手に先駆けてEVを打ち出し自動車業界に衝撃を与えた。現在は、初の量産車となる中型セダン「モデルS」の生産を急ピッチに進めており、2013年には2万台を生産する予定だ。
イーロン・マスクにはテスラの経営のほかに、もう一つの顔がある。「複数の惑星での生活」を目指すべく、宇宙ベンチャー・スペースXの指揮もとっているのだ。スペースXといえば、究極的には「将来的に8万人を火星に移住させること」が目標だ。12年5月には、民間宇宙船会社として初めて宇宙船「ドラゴン」を搭載した「ファルコン9」の打ち上げに成功。10月末には米航空宇宙局(NASA)との契約に基づく物資輸送ミッションをこなし、地球に帰還するなど快挙を成し遂げている。13年には7回の打ち上げ、いずれは宇宙旅行を手がける計画だ。
非現実ともいえる壮大なビジネスプランの背景には、化石燃料の枯渇と地球温暖化への強烈な危機感がある。
彼は言う。「EVのアイデア自体はかなり古くからあったのに、なぜ誰も作らなかったのか。それはアイデアを実行することが思いつくより難しいからだ」。ソーラー発電も手がけ、まずは「実行」ありきで既存の業界に衝撃を与える。 米国発の「メイカーズ・アイドル」というべき3人に共通しているのは、いずれも大学での専攻や前職などに機械や電子工学などのバックグラウンドがないこと。ただし、インターネットビジネスを興した経験があり、他社と手を組むオープンイノベーションやユーザーコミュニティの重要性を理解していることだ。
現在、インターネット上で人々は、SNSを駆使して多くの人が「メイカー」になっている。あとはリアルな世界にムーブメントを起こすだけだ。このムーブメントの重要性に気づいたバラク・オバマ大統領は2012年初め、今後4年間で1000カ所の学校に3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を完備した「工作室」を設けるプログラムを立ち上げた。また12年8月には3Dプリント技術を研究・発展させるための機関の設立も発表したほどだ。
ものづくり大国のハズの日本の政府も具体的な動きを始めるべきではないだろうか? 大企業をも震撼させるメイカーズムーブメントは日本にも広がり始めている。パナソニック、シャープなど日本を代表するエレクトロニクス企業の業績はどん底。これはメイカーズが育つ絶好のチャンスなのかもしれない。日本の学校にもIT工作室が必要だろう。
(文=松井克明/CFP)