10年で3割増、重すぎる税負担に苦しむ家計も…高騰する地価で固定資産税も増加

●この記事のポイント
・全国的な地価上昇で固定資産税の負担が増加。特に東京23区では10年間で税負担が3割上昇し、家計への影響が深刻化している。
・固定資産税を抑えるには、取得時や相続時の評価確認、省エネ住宅の減税活用、土地分割、課税内容の精査など複数の手段がある。
・2024年度の税制改正で空き家や更地への課税強化が進行。今後は「不動産をどう持ち続けるか」が節税と資産防衛のカギとなる。
全国的な地価上昇が続くなか、家計にじわりと影響を与えているのが固定資産税だ。土地や建物の評価額をもとに算出されるこの税金は、地価や路線価の上昇に連動して増加する。
国土交通省が発表した最新の基準地価(2025年)では、全国平均で住宅地が2年連続の上昇。特に東京23区は再開発の進展やインバウンド需要を背景に上昇幅が顕著で、過去10年間で住民・事業者が負担する固定資産税は3割増となった。
たとえば、都内で3000万円相当のマンションを所有する家庭の場合、10年前と比べて年間数万円単位で負担が増えている。家賃や光熱費と違い、毎年確実に請求されるこの税は「家計の見えない圧力」ともいえる。
しかも、全国の固定資産税収のうち約2割が東京23区に集中している。土地面積では全国のわずか1%しかない地域にこれほど税収が偏る構造は、地方自治の観点からも課題視され始めている。
●目次
都市に課される“ペナルティ”か、資産価値の証明か
固定資産税は本来、地方自治体の貴重な財源であり、インフラ整備や教育・福祉に使われる。だが一方で、「住む場所によって負担が極端に偏る」という批判も根強い。
特に東京23区では、評価額の上昇ペースが所得上昇を大きく上回っており、「住民税より重い固定資産税負担」と嘆く声も少なくない。
税率そのものは原則1.4%(地方税法で上限1.7%)と一見低いように見える。しかし、評価額が上がればそのまま課税額が増える。さらに、建物の評価は経年で減少する一方、土地の評価は上昇を続けているため、トータルの納税額は減るどころか増えるケースが多い。
これに対し、「都市集中による地価高騰が原因なのだから、ある程度の負担は仕方ない」との意見もある。だが、実際には所得や資金余力の乏しい高齢世帯が、上昇した評価額に耐えきれず住み替えを迫られる事例も増えており、社会問題化の兆しも見える。
固定資産税を抑える5つの視点
では、こうした負担を少しでも抑えるためには、どんな手段があるのか。不動産コンサルタントの秋田智樹氏に、主な5つの対策を紹介してもらった。
1.「最初が肝心」──取得・相続時の評価を確認
固定資産税は、土地・建物の評価額をもとに3年ごとに見直しが行われる。つまり、最初の評価が高すぎると、その後の課税がずっと重くなる。
購入時や相続時には、自治体が発行する「固定資産税評価証明書」や「課税明細書」を確認し、近隣の類似物件と比べて不自然に高い場合は再評価を申し立てることができる。
実際、自治体による評価ミスや、登記情報の誤りで本来より高く課税されていたケースも散見される。根拠書類の「地目」「地積」「建物構造区分」などを見落とさないことが重要だ。
2.長期優良住宅・省エネ住宅の減税を活用
国の制度として、長期優良住宅や省エネ住宅に対する減税措置が設けられている。たとえば新築住宅の場合、一定の省エネ性能を満たすと固定資産税の3〜5年間の減額(最大1/2)が受けられる。さらに、自治体によっては独自の補助や延長措置を設けている場合もある。
東京都世田谷区や神奈川県横浜市では、ZEH住宅や太陽光発電システム付き住宅への追加減免を実施。エネルギーコスト削減だけでなく税コスト削減の観点からも“エコ住宅”は賢い選択肢になっている。
3.「土地の分割」でトータル納税額を減らすケースも
固定資産税は、土地1筆ごとに課税されるため、分割の仕方次第で課税額が変わる。
たとえば、同一敷地内に自宅と賃貸住宅がある場合、分筆登記を行うことで住宅用地特例(200平米までの1/6課税など)を適用しやすくなる場合がある。
ただし、安易な分割は登記費用や将来の売却時の制約を生むため、税理士や不動産鑑定士に相談のうえで判断すべきだ。
4.「固定資産税が間違っている」可能性を疑う
自治体から毎年送られる「固定資産税・都市計画税納税通知書」。多くの人はそのまま納付しているが、誤課税の指摘で還付された事例も少なくない。特に多いのが、建物の老朽化や増改築後の評価が反映されていないケースだ。
地価が下落している地域でも、3年間の評価替えが終わるまで課税額が据え置かれることもあり、「実勢より高い評価」で課税されている可能性がある。不審に感じたら、市区町村の固定資産税課に「縦覧制度」や「閲覧制度」を利用して他物件と比較するのが有効だ。
5.新税制・都市税制改正にも注意
2024年度の税制改正では、空き家対策や土地利用促進の観点から、固定資産税の扱いにいくつかの変更が加えられた。
たとえば、住宅が取り壊され更地になった場合、従来は翌年度から税額が最大6倍に跳ね上がる「住宅用地特例の除外」が適用されたが、今後は再利用予定がある場合に限り猶予される仕組みが導入された。
一方で、空き家の放置に対する課税強化も進んでおり、今後は「使わない不動産」への税負担がより重くなる方向だ。
いま求められる「固定資産税リテラシー」
不動産価格の上昇は、一見すると所有者にとって喜ばしいニュースに映る。しかし、評価額上昇=税負担増という現実を忘れてはならない。
特に、相続や転勤などで複数の不動産を保有する家庭では、固定資産税だけで年間100万円以上を支払うケースもある。
秋田氏は、「地価が上がる時代ほど、固定資産税を“見える化”して管理する必要がある」と指摘する。税額や評価の根拠を理解し、制度を使いこなすことが最良の“節税策”なのだ。
固定資産税は、購入時の決断だけでなく、その後の維持・運用のあり方をも左右する。「家を買えば終わり」ではなく、「持ち続けるコスト」をどう最適化するかがこれからの時代の鍵となる。
評価をチェックし、制度を知り、適正な負担を守ること――それが、資産を守る最も現実的な防衛策である。
以下にチェックリストを用意したので、活用していただきたい。
・固定資産税評価証明書を確認したか?
・省エネ・長期優良住宅減税を活用しているか?
・土地の分筆や用途区分を見直しているか?
・納税通知書の内容を精査しているか?
・空き家や更地の扱いに新制度が影響していないか?
固定資産税は「取られる税」というだけではなく、「活用できる制度」でもある。国や自治体は、省エネ化・空き家対策などの政策誘導を、税制を通じて行っており、これを理解して動くことが、結果として家計を守る最善の戦略になる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











