建設費用の高騰の影響などで、関東・関西のマンションの99%は、一戸当たり2000万円を負担しても建て替えができないという試算が注目されている。株式会社スマート修繕が試算・発表したもの。同社が関東の8万棟の物件データより算出したところ、関東では一戸当たり2000万円の負担で建て替え可能なマンションは、全体の約0.7%しかないという。専門家は「管理組合で建て替えが決まっても実施できないケースも増えており、このままだとスラム化したマンションが多数残されることになる」と懸念を示す。
一般的にマンションは定期的に修繕を行う計画が立てられ、区分所有者は毎月、修繕積立金を負担し、管理組合が積立を行う。一方、建物自体の耐用年数があり、RC造の減価償却耐用年数は47年、現実的には物理的耐用年数は概ね60数年といわれている。つまり、修繕を重ねていても施工から一定の年数がたつと建て替えを行う必要があるが、現実的には建て替えができないまま時間が過ぎてしまうケースが少なくない。国土交通省「令和6年 築40年以上のマンションストック数の推移」「マンション建替え等の実施状況」によれば、国内で築40年を超えるマンションは2023年末で136.9万戸あり、そのうち建て替えを実施したのは約2万4000戸(24年4月1日時点累計)。2043年には築40年を超えるマンションは463.8万戸に増加すると予想されている。
オラガ総研代表取締役の牧野知弘氏はいう。
「体感的には建設費はここ数年、3~4割ほど上昇しており、加えて建物の解体費用の高騰も重なり、費用の問題で建て替えができないマンションが増えていると感じます。容積率に大きな余裕があったり、隣接する場所に建物を大幅に拡張できる敷地を保有しているといった例外的な事情がある場合を除き、区分所有者は数千万円単位の負担を強いられることになります。一戸当たりの負担額を低くするために、建て替え後に専有面積が半分ほどになってしまうというケースも出てくるかもしれません。
区分所有者が持つ権利をディベロッパーにまとめて買い取ってもらうというスキームもありますが、管理組合で区分所有者の5分の4の賛成を得る必要があり、現実的には難しいです。仮に管理組合で修繕積立金を建て替え費用に充てる旨の合意が取れても、不足分の追加費用が高額になれば建て替えについて賛成の決議にいたるのは難しくなります。
国土交通省『マンション建替え等の実施状況』及び『分譲マンションストック数の推移』によれば、22年末時点で旧耐震基準のマンションは約103万戸存在し、24年4月時点で建て替えが完了したマンションは約2%の約2万4000戸しかありません。また、国交省による管理組合へのアンケート調査によれば、建て替えの協議や準備はしているものの資金がなかったりといった理由で実施できないケースも少なくないようです」
住民の高齢化の問題
建て替えができない理由としては費用の問題だけではないという。
「老朽化が進むマンションの住民には高齢者が多いという傾向がありますが、そうした高齢世帯のなかには高額な建て替え費用を負担する経済能力がなかったり、『放っておいてほしい』『一生ここで暮らすつもりなので建て替え費用など負担したくない』という人もおり、管理組合で5分の4の賛成を得るためのハードルは高くなってきます。また、単身高齢者や認知症の高齢者の場合、家族関係が悪化していて管理組合が相談できる家族がいないとなると、その入居者にどこに移ってもらって、その後どうするのかということにまで、管理組合がタッチすることは困難です。このほか、区分所有者の高齢者が亡くなって家族が権利を相続しても、相続人が管理組合に届け出ることすらしていないということもあります」(牧野氏)
では今後、建て替えができないマンションが増えると、どのような事態となる可能性があるのか。
「すでに一部の老朽化したマンションでは、外国籍の住民や素性のよくわからない住民が増えたり、所有者が不明の住戸が増えたりするということは現実化しています。それを踏まえれば、スラム化したマンション、そしてスラム街のような場所が日本でも増えていく懸念があります」(牧野氏)
(文=Business Journal編集部、協力=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)