牛丼チェーン「松屋」が一部店舗で10月23日に発売した新商品「とろたまソーセージ丼」。ご飯の上に卵焼きと半分に切ったソーセージが乗って500円という強気の価格設定と商品内容が話題を呼んでいる。そのクオリティ、そして価格妥当性をどう評価すべきか。実際に試食した専門家の見解も交えて追ってみたい。
店舗数ベースでは「すき家」「吉野家」に次ぐ牛丼チェーン3位で1065店舗(9月現在)。主力メニューの「牛丼 並盛」(松屋は「牛めし」)の価格を比較してみると、松屋は430円(税込/以下同)、吉野家は498円、すき家は430円となっており、大手牛丼チェーン3社のなかでは、吉野家より低価格、すき家と同額となっている。
「牛丼店のカレー」のパイオニアと称される「松屋」は、牛丼以外、もしくは既存の牛丼という概念を超える商品の投入に注力していることでも知られている。昨年から今年にかけての期間限定品を含めた新商品をみてみると、「ブラウンソースチーズハンバーグ定食」(1030円)、「シュクメルリ鍋定食」(930円)、「チーズシャリアピンソースハンバーグ定食」(1050円)、「キャベツとベーコンのペペロンチーノ牛めし」(並盛:650円)、「リトアニア風ホワイトソースハンバーグ定食」(880円)などを相次いで投入。先月には期間限定で“ラーメン二郎系”の白飯の上に牛肉、野菜、刻んだニンニクが山盛り状態で乗せられた「ニンニク野菜牛めし」(通常サイズ:790円)を一部店舗で販売し話題を呼んだ。
松屋はカレーメニューに力を入れている点も特徴だ。かつては290円で販売していた「オリジナルカレー」は根強い人気を誇っていたが、この20年の間に徐々に値上がり、昨年1月には「オリジナルカレー」の販売を終了する一方で、終売となっていた「創業ビーフカレー」をリニューアルするかたちで「松屋ビーフカレー」を発売。また、年1回の期間限定販売で人気が高かった「ごろごろ煮込みチキンカレー」を22年5月に突然、レギュラーメニュー化したものの、同年12月にレギュラー販売を終了。そして今年10月には再び「オリジナルカレー」と「ごろごろ煮込みチキンカレー」をレギュラーメニューとして発売した。
フードアナリストの重盛高雄氏はいう。
「松屋は『牛焼肉定食』(840円)などの鉄板焼き系メニューやさまざまなバリエーションのハンバーグメニューなど、牛丼以外のメニューのラインナップを充実させることによって、他の牛丼チェーンとの価格競争に巻き込まれることを避けようとしていると考えられます。今回の『とろたまソーセージ丼』も、その戦略のなかの一アイテムといえるでしょう」
お客が注文する際に期待するイメージと乖離
「とろたまソーセージ丼」は「とろ~り仕上げたたまごとチーズにソーセージものせちゃいました」と謳われた丼もの。松屋の公式サイトに掲載された商品画像では、ご飯の上に“とろふわ”状のエッグ、トロけたチーズ、ソーセージが乗り、ブラックペッパーがかけられている。販売時間は5時から11時までの朝食メニューであり、味付け海苔、味噌汁、お新香がついて500円となっている。実食した重盛氏はいう。
「結論からいうと残念な商品といわざるを得ません。ソーセージは市販サイズ1本分を半分にカットしたものが4個乗っているので実質2本、卵は火がしっかりと通っているためフワフワでもトロトロでもなく硬く、チーズは見た目的にも味覚的にもほとんど存在を感じられません。親子丼のように鶏肉と卵が絡み合って一体感が醸し出されているということもなく、単に卵焼きの上に温かいソーセージが乗っかっているという食感です。料理は見た目も重要ですが、一見するとチーズがあることに気が付かず、もう少し形がはっきりしたシュレッドチーズなどをかけたりして、食べる人に視覚的にアピールするような工夫をしてもよいのではないでしょうか。卵を“ふわとろ”になるように焼くには、それなりのスキルが必要なため、調理する店員のスキルによってバラツキが生じてしまうという事情はあるかもしれません。
松屋の最近の新商品は、お客が注文する際に期待するイメージと乖離している商品が増えていると感じます。たとえば9月に発売された『ごろごろチキンのバターチキンカレー』は、注文するお客はチキンにカレーとバターの味がしっかりとしみ込んでいると期待しますが、十分に煮込まれているとはいえず、カレーのなかにポンとチキンを置いただけという印象で、味がバラバラでした。『とろたまソーセージ丼』も同じような難点を抱えています。
外食チェーン業界では今、“朝食戦争”ともいえる現象が起きており、各社はワンコイン=500円以下で消費者に付加価値を感じてもらえそうなメニューの投入に力を注いでいます。今回の新商品も朝食メニューとして新奇性のある商品を提示して集客を狙っているのだと考えられますが、『500円出して、これなのか』というがっかり感が強く、逆の意味での驚きを感じてしまいます」
(文=Business Journal編集部、協力=重盛高雄/フードアナリスト)