「まぐろ」「ヤリイカ」などの寿司を1貫70円(税抜)で提供している回転寿司チェーン「すし松」をめぐって、「安い」「全然うまい」と一部SNS上で話題となっている。回転寿司チェーンなかでも一段下の低価格となっているが、寿司のクオリティはどうなのか。また、他のチェーンと比べてどのような特徴があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
回転寿司業界の競争は激しい。店舗数ベースで1位は「スシロー」(642店/2024年4月時点)、2位は「はま寿司」(570店/23年6月時点)、3位は「くら寿司」(546店/24年3月時点)となっており、それに「かっぱ寿司」「魚べい」が続く。そんな3桁に上る店舗を展開する大手がひしめく同業界のなかで、「すし松」の存在感は大きくはない。店舗数は首都圏にわずか11店舗のみで、認知度が高いとはいいがたい。
運営元は牛丼チェーン「松屋」やとんかつチェーン「松のや」、カレーチェーン「マイカリー食堂」などを運営する松屋フーズだ。店舗数が少ないため松屋フーズが最近新たに始めた新業態と思われるかもしれないが、1号店の出店は2006年。開始から18年間で11店舗というのは、大手外食チェーンが手掛ける業態としては少ないといえるだろう。
すし松のメニューで目を引くのが、その安さだ。一例をあげると以下のようになっている。
(握り単品)
・生ゲソ:77円(税込/以下同)
・焼きサーモン:99円
・本鮪上赤身:143円
・赤エビ:143円
(3貫盛り)
・本日おすすめ三貫盛り:429円
(セット)
・日替り五貫盛:759円
鮮魚は毎朝バイヤーが豊洲市場で厳選して購入し、すべての商品は注文を受けてから握っているという。
十分に行く価値があると評価できる
低価格と聞いて気になるのが寿司のクオリティだ。フードアナリストの重盛高雄氏はいう。
「非常に美味しいというわけではないものの、この価格でこのクオリティであれば、十分に行く価値があると評価できます。しゃりはマシンで握っていますが、手握りに近い“ほぐれ方”で、手握りとほとんど違いはないと感じます。個人的に“当たり”だと感じたメニューは『本鮪中トロ』(209円)で、中トロらしい油感があり、しゃりのサイズとネタの大きさも十分なボリューム感があります。
客として嬉しいのは1個単位で注文できる点で、たとえば『まぐろ』好きの客であれば通常のまぐろ、上赤身、中トロを1個ずつ注文するなど、いろいろな寿司を楽しむことができますし、フェアメニューとして価格高めの寿司も提供されているので、ちょっと贅沢するということも可能です。お刺身や一品料理もあり、日本酒のフェアも開催されたりしているので、ちょびちょびやりながら最後に寿司で締めるという過ごし方もできるでしょう。こうした点は、店側としては、より幅広い客層にリーチできることにつながります。
このほか、他チェーンと比較した上での特徴としては、各チェーンがメニューを拡充させているスイーツ類などは少なく、奇をてらっていないため、落ち着いて寿司を味わえるという印象を受けました」
店舗には客への配慮を感じさせる工夫もみられるという。
「私が訪問した和光市駅店は、店舗の外から見えるのがカウンターに座る客の背中で、店舗内部の客の顔や姿が見えないつくりになっていました。女性のなかには回転寿司を食べている姿を見られたくないという人もいるでしょうから、女性のグループ客なども利用しやすいでしょう。皿もすぐに店員が片づけてくれるので、積み上がった皿を他の客から見られる心配もありません。
タッチパネルで注文するとレーン上を料理が運ばれてくるのですが、上下あるうちの下のレーンの幅が広くなっているため、グループ客が多めに注文した際に1回でまとめて運ばれてくるというのも、心配りが行き届いています」(重盛氏)
「すし松」が大きく店舗数を増やしていく可能性は?
では今後、「すし松」が大きく店舗数を増やしていく可能性はあるのか。大手外食チェーン関係者はいう。
「結論からいうと、難しいと思います。回転寿司チェーンは既存の大手5社が強すぎ、5社だけで店舗数は2000店舗に迫る勢いなので、そこに入り込む余地は少ないです。また、生ものを扱う業態には独特の難しさがあり、料理のクオリティを均質に保ったまま店舗網を拡大させていくのは難易度が高い。そもそも、松屋フーズのこれまでの動きを見る限り、『すし松』の店舗数を大きく増やそうという考えは薄いように感じます。当面は強みのある牛丼、とんかつ、カレーなどに注力していくのではないでしょうか」
(文=Business Journal編集部、協力=重盛高雄/フードアナリスト)