舞台となっているのは麻生フオームクリート。麻生大臣の曽祖父である太吉氏が創業した麻生グループの一員で、気泡コンクリートを使用した工事のパイオニアとして知られる。マーケットでは有名な「麻生銘柄」でもあり、2012年末の衆議院議員選挙で自民党が復権した際には、それまで100円台だった株価が約1週間で4倍にも急騰し、市場関係者の話題をさらった。
その麻生フオームクリートが2月に発表した「業績予想の修正に関するお知らせ」によれば、昨年5月時点で売上高39億3500万円としていた14年3月期通期業績予想は4億円近く減少し、35億6000万円になる見込みだという。同社は昨年10月に「通期業績予想につきましては、変更ございません」とのリリースを出していただけに、ここへきて一転して業績悪化にアクセルが踏まれたかたちだ。
下方修正の理由は、「主力の気泡コンクリート工事の一部工事の工期が第3四半期から繁忙期である第4四半期へずれ込み、現場責任者や労務人員の確保が難しい状況のため、当初見込みどおりに完成工事高を計上できない可能性が強くなってきた」としており、要は建設業界全体を悩ませている人手不足問題が、経営を直撃しているといえる。
安倍政権の政策が人手不足に拍車をかける
建設業界の人手不足問題の元凶は、安倍政権が行った公共事業政策にほかならない。震災復興事業などに人員が割かれ、建設業界の人手不足が問題視されていた中で、かつての自民党政権時代さながらの公共事業のバラマキを復活させたことで、この問題をさらに深刻化させた経緯がある。「麻生大臣も『地方の建設業者にカネや仕事が回る』などと、これを容認してきた」(大手ゼネコン社員)。その大盤振る舞いがここへきて“一族企業”の経営を直撃しているのだから、「まさに『自爆』」(中堅デベロッパー社員)というわけだ。
厚生労働省の調査によれば、今年1月の有効求人倍率は「建設躯体工事=7.32」「建築・土木・測量技術者=3.96」「土木=2.72」など、建設業界で求人が追い付かない状況が続いている。そこへきて安倍政権は2月に約5兆5000億円の補正予算を決定、麻生大臣がその大半を占める公共事業の「早期執行」を指示しているため、人手不足に加えて、今後は建築資材や現場労働者の日給の高騰が加速する公算は大きい。
その影響は、すでにコストアップとなって小売業界や外食産業にまで波及しており、出店計画を見直す企業も出てきているという。麻生グループでは病院やサービス付き高齢者向け住宅なども手掛けており、これら施設の新設・移転などに影響が出てくる可能性もある。
しかし、身内のためにバラマキをやめることなどできるはずもない。麻生大臣が前のめりに突き進むほどに、「自爆」がさらに火を噴く悪循環にはまっていく。麻生フオームクリートの株価は、直近で300円台前半にまで落ち込んだ。ジワリジワリと下がる株価が、この問題の根深さを物語っているようだ。
(文=桔川豊/経済ジャーナリスト)