都道府県別では、値上がりは29府県、横ばいは8道府県、値下がりは10都県。最も高かったのは鹿児島県(176.9円)で、以下、長崎県(175.0円)、長野県(173.8円)と続いた。
ガソリン価格の上昇が続いている背景には大きく分けて2つの要因がある。1つは、4月以降の“ダブル増税”の直撃である。1リットル当たりの暫定税率分(25.1円)を含めた揮発油税(53.8円)や原油関税(0.215円)は据え置きながらも、消費税率が5%から8%へ上昇したのに加え、石油石炭税(2.04円)が地球温暖化対策税の上乗せ分(0.25円)が増税された。その増税分が価格にも転嫁されたことが響いた。
ガソリン料金の高止まりは当分続く見通し
もう1つの要因は、イスラム過激派組織の侵攻によるイラク情勢の急速な悪化を受け、原油価格の上昇傾向が続いていることが大きい。中でも日本などアジア地域での指標となるドバイ原油は1バレル=110ドルを上回るなど、6月に入ってから約1カ月で5ドルも値上がり、約9カ月ぶりの高値圏で推移している。このため、JX日鉱日石エネルギーや出光興産などの石油元売り各社は石油製品の卸価格を引き上げており、それがガソリンスタンドなどでの店頭価格にも波及している。
また、石油元売り各社が相次いでガソリン価格の卸価格の算出方法を、原油相場の動きをリアルタイムに反映しやすい新しい方式に変更したことも影響している。一般的にガソリンの卸価格は原油価格の動向や業者間の取引価格をベースにした「指標価格」に、タンカー輸送やタンクローリーによる配送などの「物流費」、それに「販管費」を合算して決定する。ガソリンは差別化がつきにくい商品であり、これまでは国内市場の動向を反映させるため、業者間で取引されるガソリンの価格を重視してきた。元売り各社が備蓄在庫として抱えるガソリンを薄利多売で流通させるケースも多く、指標価格を下落させる要因ともなっていた。
ところが、元売り各社は本業の稼ぎを示す営業利益が減少して、経営を圧迫することになれば「中長期的な安定供給に支障を与えかねない」と強調。すでにコスモ石油、昭和シェル石油に次いで、6月にはJX日鉱日石エネルギーなどもガソリンの卸価格を原油相場の調達コストを正しく反映させた計算方式に見直している。それがガソリンの店頭価格の上昇要因にもつながっており、従来は原油の輸入調達コストは店頭価格の4割程度だったのが、原油価格の高騰が続く場合は6割以上を占めることにもなる。
原油動向に詳しいエネルギー専門家の中には「イラク情勢の不安要素が加わったことで、この先の原油価格は1バレル=120〜130ドルの高止まりが続く」との予測もある。今後もガソリンの店頭価格の上昇が見込まれるだけに、夏休みを控えて帰省や行楽地へのドライブ旅行を計画している自動車ユーザーにとっては、大きな負担増となりそうだ。
高速道路料金も実質値上げ
しかも、負担増はガソリンばかりではない。高速道路料金も土日休日のETC割引が7月に入り、これまでの5割引きから3割引きに縮小されたことも痛手だ。それでもガソリン代は、燃費性能に優れているハイブリッド車などのエコカーに乗り換えることで、ある程度の軽減につながるが、高速料金だけは一般道を走行しない限り節約できない。
国は2016年度をめどに首都圏高速道路の料金システムを見直して、新しい料金体系の導入を検討しているが、料金水準を引き下げなければ、若者だけではなく国民全体の「クルマ離れ」は一段と加速するとの懸念も強まってきている。
自動車業界はこれまでは“6重苦”と戦ってきたが、円高是正で「やっと“5重苦”になった」(日本自動車工業会の池史彦会長)。さらに、大企業にやさしいといわれる安倍政権は、企業の税負担が重くのしかかっている法人税率の引き下げにも意欲的である。優遇税制によって自動車メーカーの“5重苦”が“4重苦”に解消されても、自動車ユーザーの家計を直撃するガソリンや高速料金などの維持費の負担が増大すれば、自動車を使う人が減り、国内の新車販売も伸び悩む。
新興国など海外市場に目を向ける自動車各社は、自動車取得税の廃止などの税負担の軽減については国に要望しているが、少子高齢化が進む国内での「クルマ離れ」を防ぐ抜本的な対策については「打つ手なし」とあきらめている業界関係者も少なくない。
この先も経済波及効果の大きい新車販売の低迷が続けば、アベノミクスで景気回復の追い風が吹く日本経済も、再び冷え込むような悪循環を繰り返すことにもなりかねない。
(文=松原高雄/経済ジャーナリスト)