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高速道路、遠のく無料化、“異常な”高額料金解消策は?国営・永久有料化への転換

文=井元康一郎/ジャーナリスト
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高速道路、遠のく無料化、“異常な”高額料金解消策は?国営・永久有料化への転換の画像1「Thinkstock」より
 いつかは通行料金が不要に――その「いつか」が、やってこない見通しが強まってきた

 5月28日、高速道路の有料期間を2050年から65年へと最大15年間延長することを盛り込んだ、改正道路整備特別措置法などの道路関連法が参議院で可決、成立した。無料化が行われたとしても今から51年先。今春免許を取得した18歳の若者がそろそろ免許を返上しようかと考え始める年齢になる頃の話である。しかも、これまでの高速道路の有料期間延長の歴史を考えれば、途中で約束が反故にされて再延長される可能性が濃厚。その頃には22世紀の国のグランドデザインを提示する時期で、無料化スキームなど吹き飛んでいることだろう。

 日本に初の高速道路、名神高速道路が開通したのが1963年。当時から「高速道路に税金を本格投入しないのであれば、100年たっても借金を払いきれるわけがない。償還主義(通行料で道路建設費を賄う方式)は絵に描いた餅」という声は識者からも多々出されていた。その声が正鵠を射ていたことが時を隔てて証明されつつある。

 償還主義が破綻しているばかりではない。すでに広く知られているように、日本の高速道路の通行料金は世界の中でも比類なき高さだ。普通車でわずか100km少々走っただけで3000円も支払わなければならないというのは、ほとんど移動妨害に等しい。国土交通省は日本の高速道路料金が高額な理由について、山岳地帯が多いうえに耐震構造を取る必要があり、さらに土地代も高額だからと説明している。土地代が特に安いアメリカとの料金比較では約2.5倍ほど高額で、山岳地帯の多い欧州と比べてもやはり高額だ。

 しかし、その工費の違いを勘案しても、日本の高速料金はなお高すぎる。例えば、山岳国スイスでは、高速料金は14カ月乗り放題で40スイスフラン。日本円に直せば4500円程度だ。オーストリア、ハンガリーなどでは旅行者向けに10日間有効の短期チケットがある。価格は国によって異なるが、概ね8~10ユーロ(約1120~1400円)である。

 フランスやイタリアは日本と同様に距離制を取っており、1kmあたりの料金は日本ほどではないが結構高いものの、こちらもトータルでは日本の半分に遠く満たない。高速道路のすべてが有料なのではなく、有料区間と無料区間が存在するためだ。仮に日本の高速道路建設費が高額だとしても、10日10ユーロに対して10倍でも1日1400円。

 政府はかつて、休日の高速料金1000円均一という割引を行ったことがあるが、国際比較でみれば大盤振る舞いではない。日本の高速道路料金は異常に高く、移動に莫大なコストがかかる以上、日本人の“クルマ離れ”が起こるのは当然である。

 以前、民主党が高速道路無料化を公約としてうたったこともあるが、長年にわたって償還主義をベースとした道路整備が行われ、莫大な借金を抱えてしまった後で無償化をすることは困難である。高速道路の通行料を高額のまま放置しておくのは、国内の自動車市場の活性化の面でも物流コスト引き下げの面でもマイナスでしかない。

償還主義の放棄、永久有料化への全面変更

 ここで一考の価値があると思われるのは、高速道路行政のシステムを償還主義の放棄、すなわち永久有料化をベースに全面変更することだ。

 前述のように、日本の高速道路が高い理由のひとつは土地代を含めた1kmあたりの建設費用が高いことだが、そればかりではなく、工事費や維持費がかさむような道路整備をしていることも見逃せないコスト高の要因なのだ。

 例えば高速道路の高架率。日本は世界でも突出して高架式が高い。土地代の高い都市部ばかりでなく、地方においても無意味に高架式を採用している区間が長すぎるからだ。欧州のある自動車メーカーのエンジニアが来日したとき、高速道路やバイパスに、高架式で使われる床板の継ぎ目があまりに多いことに驚き、日本仕様のスペックを考え直したということもあったほど。

 コスト高の要因は高架式だけでなく、さまざまな部分に及ぶ。高い高速料金が当たり前となってしまい、資金を潤沢に使える日本の高速道路各社に、コスト意識が欠如している点は否めない。

 このような事態を招いているのは、高速道路の民営化によって、インフラ整備や保安コストが妥当かどうかを外部からチェックすることが事実上、不可能になっているからだ。高速道路の民営化の大目的は無駄なコストを省くためだったのだが、民に移行してからは会社としての決算は透明化されたが、事業コストについてはむしろ不透明になり、新たな利権の温床にすらなっているのだ。

国営・公費併用への転換

 高額な通行料を世界水準に近づけるための方法としては、運営は民営のままでよいが、道路整備については国営に戻し、通行料だけでなく公費を併用して整備する方式に転換するというものがある。その財源として、世界の中でも安価な水準となりつつある燃料税を引き上げるなどの方法が考えられる。

 そのほかの通行料引き下げ策としては、負債増大の原因となる高速道路のさらなる延長整備は今すぐ全面停止し、低規格のバイパス建設に全面的に切り替えるという方法もある。

 日本の交通インフラ整備の観点からも、高速道路行政の抜本的な見直しに向けた議論が必要といえよう。
(文=井元康一郎/ジャーナリスト)

井元康一郎/ジャーナリスト

井元康一郎/ジャーナリスト

1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

Twitter:@Imoto_Koichiro

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