ECBは国債中心にユーロ建て債券を月600億ユーロ(約8兆2200億円)購入する。今年3月から16年9月までで、2%近い物価上昇目標の達成まで続ける。ECBへの出資比率に応じて国債を購入する。
気になるのは日本経済への影響だ。購入額が市場予想の月500億ユーロを上回ったこともあり、緩和策の発表直後にユーロ安が鮮明になった。円相場も対ユーロのドル上昇で、円安ドル高が進む方向が明確だ。
エコノミストの間では「3月までに1ドル120円まで円安が進行する」との見方も出ており、短期的には日本経済にとって追い風になる。1月末に始まる企業の15年3月期通期業績見通しも、円安株高を背景に上方修正が相次ぐ可能性が高い。
急激な円高を招く恐れも
一方、長期の視点では気がかりな点も少なくない。ECBが2%近い物価上昇達成までの緩和継続を打ち出したことで、緩和が長引けば日銀の金融政策の出口戦略が一層難しくなる。ECBの資金供給量は16年9月までと仮定しても、総額1兆1400億ユーロ(約156兆円)で日銀の金融緩和規模を上回る。金融政策変更のタイミングを誤れば急激な円高を招きかねず、企業業績の勢いを削ぐことにつながりかねない。
米国では米連邦準備理事会(FRB)が利上げのタイミングをうかがっており、日銀を取り巻く不確定な要素は多い。日銀の黒田東彦総裁は1月21日の会見で、15年度の物価見通しを下方修正しながら静観を貫く姿勢を示した。ECBのマリオ・ドラギ総裁による想定を上回る「バズーカ砲」は、日銀にとっても試練になる。
こうした懸念が浮上するのも、今回のECBの緩和効果自体を疑問視する声が多いからだ。欧州経済に詳しいエコノミストは「市場の緩和圧力に抗えずに踏み切っただけで、効果は限定的だろう」と指摘する。
各国の国債の購入量は、ECBへの出資比率に応じて決まる。出資筆頭国ドイツの国債が買い入れ枠の約4分の1を占める一方、南欧諸国の買い入れは少ない。地域ごとに購入量に差が出るのは避けられず、日米の量的緩和と同じような効果は期待しにくい。
「頼みの綱のユーロ安で、収益性が厳しいイタリアやフランスなどの企業が競争力をどこまで取り戻せるかがカギ」(前出のエコノミスト)。劇的な効果が見込みにくい中、アナウンスメント効果でインフレ期待をどこまで高められるか。もはやドラギ総裁の口八丁が命運を握っているといっても過言ではない。
(文=黒羽米雄/金融ジャーナリスト)