ギリシャ財政危機でドイツ儲かる?ギリシャのユーロ離脱とロシア接近を防ぐ外交かけひき?
実はギリシャの恩恵を受けているドイツ
とはいえ、EU側もそれほど強気には出られないのが実情だ。ギリシャを追い詰めて、万が一ユーロ離脱という結果になった時、「困るのはギリシャのほうだ」とたかをくくってはいられない事情がある。
それは、「ギリシャとロシアが近い」ということだ。両国は地理的に近いのはもちろん、文化的にも結びつきが深い。ロシアのキリル文字は、ギリシャ文字が起源であり、ロシアの多くの国民がギリシャ正教徒である。実際、ギリシャとロシアの経済的な「親近感」は高まっているようだ。ギリシャの新政権は、ウクライナ問題における対ロシアの追加制裁に同意しなかった。また、両国の外相会談では、ロシアはギリシャ政府から支援の要請があれば検討する考えを示している。
EUとしては、こういったギリシャとロシアの接近を看過することはできないだろう。ギリシャを「ユーロの一員」として完全に取り込み、安定させることが地政学的にもとても重要なのである。
そこで、鍵を握るのがドイツだ。ギリシャ支援に関して、最も強く財政緊縮を要求しているのがドイツである。自分たちが堅実に貯めていたお金で、なぜ放漫財政のギリシャを救わなければならないのか、という国民感情は理解できる。しかし、実はドイツはギリシャの恩恵を受けている面もあるのだ。
ドイツは、国内の景況感指数が4カ月連続で上昇するなど経済回復が著しい。その牽引役は輸出だ。2014年12月の貿易統計で、ドイツの輸出は前月比3.4%増と、14年9月以来の大幅な伸びを記録した。ドイツは今や、世界最強の貿易立国であり、かつての日本、そして中国を超える世界一の経常黒字国である。
通常であれば、経常黒字国の通貨は買われやすい。すると、自国通貨高によって輸出が徐々に落ちていき、製造業の海外生産移転を招くことになる。これは、かつての日本がたどった道である。
ところが、ドイツはそういった事態を回避できている。それは、いうまでもなく、通貨がユーロだからである。ユーロ圏にギリシャやポルトガル、スペイン、イタリアなど、近年財政難に陥った国があるおかげで、ユーロ安が進み、そのおかげでドイツはどんどん輸出を伸ばして貿易で稼ぐことができるのである。
ギリシャがユーロ圏にいる限り、ドイツはいくら稼いでも自国通貨高になる心配はいらない。むしろ、ドイツはギリシャに感謝するべきだろう。しかし、前述の国民感情を考えると、表立って「ダンケシェーン(ありがとう)」と言うわけにはいかない。もちろん、支援の条件である財政緊縮の要求も、政治的な建前として緩めるわけにはいかない。
そう考えると、バルファキス財務相が大人気という報道は、表向きには厳しい態度を維持しなければならないドイツメディアによる、せめてもの感謝のしるしなのかもしれない。
(文=広木隆/マネックス証券チーフ・ストラテジスト)