なぜ『はじめの一歩』は、つまらないのか?「あしたのジョーの呪い」と世界チャンプ過多
今回は「わかる人だけわかればいい」というボクシング漫画の話をさせていただく。
もし私が漫画について自身のオールタイムベスト10、つまり史上最高の10作品を選ぶとしたら『はじめの一歩』は間違いなくランクインする。一方で『ONE PIECE』『NARUTO』『キングダム』など珠玉のような他の作品群を頭に浮かべると、史上最高の10作品に『あしたのジョー』が入るかどうかはボーダーラインだろう。
それくらいおもしろいボクシング漫画『はじめの一歩』が、なぜつまらないのか? 矛盾した表現だが、恐らく『はじめの一歩』ファンの方なら同作が『あしたのジョー』より面白くてつまらないという点には同意してくれるはずだ。
その理由は、私の専門領域であるビジネスにあるというのが今回の話だ。
あしたのジョーの呪い
具体的に『はじめの一歩』が『あしたのジョー』よりつまらない理由はふたつある。そのうちのひとつは、「あしたのジョーの呪い」だ。
今回は「わかる人だけわかればいい」という基準で細部の説明は省略するが、私より上の世代にとってアンチヒーローだった『あしたのジョー』の主人公・矢吹丈は、世界チャンピオンになれずに白く燃え尽きて終わった。問題はそれ以降、同作の掲載誌であった「週刊少年マガジン」(講談社)誌上で、主人公がボクシングの世界チャンピオンになることがなくなってしまったことだ。これが「あしたのジョーの呪い」である。
『ガッツ石松物語』のような実録物の漫画は別である。「少年マガジン」誌上では『タフネス大地』などフィクションのボクシング漫画の主人公が日本チャンピオンになった時点で、連載は打ち切りになるという不思議なケースが非常に長い間、続いてきた。
しかし、20世紀終盤にこの「あしたのジョーの呪い」を部分的に解き放ってくれたのが「少年マガジン」で連載されていた『はじめの一歩』だった。主人公以上の存在感がある鷹村守が世界ジュニアミドル級で、この物語の登場人物の中では歴代最強といっていい世界チャンピオンを破り、ついに世界チャンピオンのベルトを腰に巻いた。
ところがなぜかこれ以降、鷹村の世界戦は一部の試合を除いておちゃらけた試合が続き、主人公やそのライバル世代もひとりを除いてなかなか世界に届かない状況が続く。連載から25年以上たって、いまだに世界は遠いというところが読者としてはつまらない。