なぜ『はじめの一歩』は、つまらないのか?「あしたのジョーの呪い」と世界チャンプ過多
体重別で戦うボクシングとテニスを一緒にしてほしくないというなら、白井義男の時代に比べて世界チャンピオンの人数が10倍に増えているという意味で、現在のボクシング世界チャンピオンは『あしたのジョー』の矢吹丈がボクシングを始めた頃の世界10位でも到達できる地位にインフレしてしまったといっておこう。
そして『はじめの一歩』の主要キャラたちは、連載から25年たった今でも、そのかつての世界ランキング10位よりも下の世界から抜け出せていないのだ。
連載漫画がおもしろくなくなる仕組み
現実のボクシング界のヒーローにとっては、世界王座は実は通過点でしかなくなっている。それよりも世界王座で何度防衛するか、そしてそこから何階級勝ち上がるのか。さらにいえば、マッチメイクで弱い相手とばかり戦って階級を重ねても元世界王者としての評価は低い。どのような戦いでそれを防衛し、複数の階級を制覇するか。その世界チャンピオンとしての戦いの中から、パウンドフォーパウンド、つまり重量級、中量級、軽量級おのおののくくりの中での最強は誰かという称号をめぐってしのぎを削っていく世界に、プロボクシングの意味が変わってきたのだ。
単なる世界タイトルマッチでは、かつてのように地上波の放送でも視聴率は取れない時代。現実のプロボクシングというビジネスが、そうなっている。
にもかかわらず、『はじめの一歩』の設定は40年以上も前の「あしたのジョーの呪い」をうけて、主人公たちはいつまでたっても世界タイトルマッチを舞台に戦いすらしない。主人公の幕之内一歩は、往年のライト級で石の拳と呼ばれたロベルト・デュランや、せんだって世界最強を決める一線を戦ったかのマニー・パッキャオばりの破壊力を持つボクサーだ。その幕之内がようやく世界に届くかという試合においては、世界前哨戦レベルで逆にマニー・パッキャオばりのKOパンチのくらい方をして、深くリングに沈んでしまった。
『はじめの一歩』の世界観でいえば、黄金の世代と呼べるほどの強者が集まった主人公たちは、現実世界であれば今ごろはスーパーバンタム級からライト級までの階級の世界王座を、主人公の幕之内一歩だけでなく、宮田一郎、千堂武士、間柴了らライバルたちで占めているはずである。