連続テレビドラマ『絶対零度 未然犯罪潜入捜査』(フジテレビ系)の第9話が3日に放送され、平均視聴率は前回から1.3ポイント増の11.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。
このドラマは、元公安のエリート・井沢範人(沢村一樹)率いる「未然犯罪捜査班(ミハンチーム)」の活躍を描く物語。警察が極秘に開発した「未然犯罪捜査システム(ミハンシステム)」が割り出した情報に基づき、殺人事件を未然に防ぐのが彼らの任務だ。
第9話でミハンシステムは、要人警護の任務に就く警視庁のSP・石塚辰也(高橋努)を危険人物として判定した。ミハンチームはさっそく石塚の周辺を調査するが、素行に不審な点はなく、とても殺人を計画するような人物には見えない。ところがさらに調査を進めた結果、石塚と親しくしている女性とその娘が、謎の犯罪グループに拉致されていることがわかる。犯人たちが人質を取って石塚に殺人を強要しているに違いないとにらんだ井沢は、石塚が殺人を犯す前に人質を救出するべく、部下の山内徹(横山裕)や小田切唯(本田翼)に指示を出した――という展開だった。
大枠としては、第4話あたりから顕著になった“テレビ朝日系刑事ドラマ路線”の王道を踏襲したストーリーだったといってよい。正義感が強く職務に忠実な石塚にとって、「国家公安委員長を殺害しろ」という犯人の要求は到底受け入れがたいものだった。だが、もし従わなければ人質が殺されてしまう。人質となっているのは殉職した同僚の妻と娘であり、今では互いに家族のように接している間柄だった。どちらを選んでも後悔しか残らない決断を迫られた石塚は苦悩するが、最終的には警察官の職務より個人的な感情を選び、人質を助けるために殺人を犯そうと決意したのだった。
妻と子供を何者かの手によって殺害され、復讐心だけの存在となったことがある井沢には、石塚の心情が痛いほど理解できる。それだけに、「石塚には一線を越えさせたくない」との思いが強い。犯罪者と警察官との心情をオーバーラップさせるのは刑事ドラマで確立された手法であり、意外性はないものの、逆に言えば手堅くまとまった回だったといえる。
本筋とはあまり関係ないが、車中で待機していた井沢に、小田切が差し入れをする場面も印象的だった。現状の報告をしながらレジ袋から飲み物やパンなどを取り出し、何が食べたいか尋ねる小田切。井沢が「あんパン」と答えると、いたずらっぽい抗議のまなざしを向ける。たまらず「じゃあおにぎりでいいよ」と半笑いで返した井沢に、なぜかあんパンを手渡す。「何それ」と笑いをこらえきれない井沢に、さらりと「わたし、焼きそばパン食べたいんで」と答え、何事もなかったかのように現状報告を続けた。脚本にもともと書かれていたのか、現場での演出なのか、はたまたアドリブなのかわからないが、上司と部下という関係性にとらわれない、ミハンチームの一体感がよく表れたシーンだった。何より、おじさんを手玉に取る本田の表情はかわいいし、ほとんど素で笑っているような沢村の「やられた」という表情もほほえましい。思わずテレビの前でニヤニヤしてしまった。
いいところばかり書いたが、不安要素もある。それは、次回が最終回だという一点に尽きる。最終回に明かされるべき謎が多すぎるのだ。井沢の妻と子供が殺された事件の真相はなんなのか。桜木泉(上戸彩)はなぜ、自分の存在をこの世から消す必要があったのか。第9話で明らかになった国際的な誘拐ビジネスの黒幕は誰なのか。東堂定春(伊藤淳史)の思惑とは別に、ミハンシステムを悪用しようとする人間がいるのか。こうした謎をきちんと解き明かすためには、あと1話では足りない気がする。せめて桜木については、こんな第9話の終わりでようやくチョロッと登場してくるのではなく、もう少し早い回で小出しにしたほうがきれいにまとまったのではないかという気がしてならない。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)