新垣結衣と松田龍平がダブル主演を務める連続テレビドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)の第8話が28日に放送され、平均視聴率は前回から1.3ポイント増の9.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。前回の第7話でようやく話が動き始めたため、視聴者の期待を集めたのかもしれない。
だが、期待させておいて落とすのがこのドラマである。そもそも初回から、ECサイト制作会社の営業アシスタント・深海晶(新垣)と、会計士・根本恒星(松田)によるラブコメディであるかのように視聴者をあおっておきながら、新垣がパワハラとセクハラを受け続ける様子を約1時間延々と流し続け、視聴者の期待を大いに裏切った。その後もさっぱり話が進展せず、視聴者の信頼を取り戻せているとはいいがたい。
この例にたがわず、視聴者の期待を高めておいて臨んだ第8話は、やはりひどい出来だった。晶と因縁があった長門朱里(黒木華)が晶の会社に中途採用されたり、行方不明だった恒星の兄が見つかったりと、いくつかの出来事は描かれたが、それぞれの話がバラバラに進んでいて、まったく一貫性が感じられない。
また、メインであるはずの晶と恒星の話を進めず、余計な設定を後からどんどん付け加えて枝葉を広げるという悪いクセは第8話でも炸裂。福島県にある恒星の実家が震災後立ち入り制限地域に入っていたという話や、その家を最近取り壊したという話など、どう考えても必要性の薄いエピソードに貴重な尺が割かれた。
それでいて、先週執拗に晶が介護に口出しした花井京谷(田中圭)の父親は、京谷の台詞ひとつであっさりと死亡。何話にもわたって寝たきりの父親をたびたび映したり、父親の介護問題で家族がもめる様子を描いてきたりしたのは、いったいなんだったのか。とりあえず登場させてみたものの、落としどころがなくなって無理やり退場させたようにしか思えない。
今まで絶対に姿を見せず、謎の存在とされてきたゲームクリエイター・橘カイジの正体もようやくこの第8話で明かされたが、これもひどかった。恒星の行きつけのビアバーにいきなり登場したカイジを演じていたのは、お笑いコンビ「ずん」の飯尾和樹。「平日の昼間から~ゴロゴロ~ゴロゴロ~」と脱力系のネタを披露する時の本人丸出しの演技で松田龍平と絡み、あっという間に退場してしまったのだ。
個人的に飯尾のお笑いは大好きだし、カイジが飯尾本人そのままだったのも、演出の求めによるものだと思うので、彼に文句を言うつもりはない。だが、いかにも意味ありげにカイジの正体を何話も引っ張っておきながら、カイジという役柄自体にも、それを飯尾が演じることにも、なんの意味付けもできなかった制作陣には、大いに文句を言いたい。当然のことながら、ネットも大荒れになった。
視聴者からも「結局何を描きたいのかわからない」「何本もの違うドラマを見せられているよう」「いったいどこに向かっているのか」など、厳しい声が飛んでいる。ごくわずかに擁護する点があるとすれば、「脚本を手掛ける野木亜紀子氏の頭の中には、なんらかのテーマがあるのだろうという雰囲気がうっすらと感じられる」ことくらいだ。ただ、それがなんなのかはさっぱりわからないし、ここまで視聴者を置いてきぼりにされては、わかろうとも思わない、というのが正直なところだ。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)