連続テレビドラマ『黄昏流星群』(フジテレビ系)の第9話が6日に放送され、平均視聴率は前回から1.2ポイント増の7.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。このドラマは、融資先に出向になった元銀行員・瀧沢完治(佐々木蔵之介)と、孤独な人生を送ってきた目黒栞(黒木瞳)を中心に、人生や恋に葛藤する男女を描く作品だ。とはいうものの、視聴者の多くには「大まじめに繰り広げられるバカバカしい展開にツッコミを入れながら楽しむ作品」として受け止められている。
かなりの強引さを見せながらも話をぐいぐい進めるのも、このドラマの特徴だ。第9話でも、完治が銀行から復職を打診されたり、栞が仕事を辞めて完治の前から姿を消したり、完治の妻・真璃子(中山美穂)がなんの当てもなく家を出て行ったりと、ストーリー上の大きな変化がいくつも描かれた。
完治は出向先で始めた新事業が実を結びつつあったため、銀行に戻るのを躊躇するが、川本保課長(中川家・礼二)から「こんなちっちゃいとこで終わるような男やないでしょ」と背中を押され、銀行に戻る決意をする。最初はあからさまに完治を嫌い、「銀行さん、銀行さん」とイヤミな呼び方をしていた川本が、最後には完治を応援するというきれいな流れだ。
「一番イヤな奴が最後はいい人になる(味方になる)」という展開は、ドラマにおいて定番中の定番だが、ベタと言われようがドラマにおいて定番をしっかりと踏襲するのは大事だな、とあらためて感じる。前日に放送された『獣になれない私たち』(日本テレビ系)が、定番を踏襲しない展開で視聴者をイライラさせただけに、なおさらそう思う。この後、完治が出向先で惜しまれたり社員らに見送られたりするシーンを描かず、銀行に戻った完治の仕事ぶりをいきなり描く演出も良い。テンポがいいだけで、ドラマはこんなにも心地よいものかとしみじみ感じた。
一方、「糖尿病で失明の危険もある」と医師に宣告された栞のその後については、「どうぞツッコミを入れてください」と言わんばかりの無茶な展開になった。おとなしく社員食堂で働いていればよかったのに、突然どこかの小さな漁港に行き、魚の入った発泡箱を運んだりするハードな仕事に就いたのだ。別に今すぐ死ぬというわけじゃないのだから、治療しながら生活すればいいのではないか。しかも、具合が悪くて立っているのもつらそうなのに、なぜそんなに厳しい肉体労働をわざわざしなければならないのか。意味のわからない栞の行動に首をかしげてしまう。
だが、ツッコミ待ちのお笑い展開だけで終わらせないのが、黒木瞳のすごいところだ。作業中に視界に違和感を覚えた栞は、背筋を伸ばして視線をまっすぐ前に向け、ゴム手袋をはめた手で片目ずつ、ゆっくりと隠した。左目をふさいでも特に変化はなかったが、右目を隠すと視界に大きく黒い雲のようなものがかかっていた。黒木はこのシーンで特別派手なリアクションをしたわけでもなく、ことさらにおおげさな表情で恐怖を表現したわけでもない。だが、病気の進行におびえる栞の恐怖が画面を通してもはっきりと伝わり、思わず息を殺して画面に見入ってしまった。インターネット上でも、「やっぱり黒木瞳は実力ある」「ゾッとするほど怖かった」など、視聴者から賛辞の声が上がったのもうなずける。
真璃子は真璃子で、家を出て娘の元婚約者・日野春輝(藤井流星/ジャニーズWEST)の家に転がり込み、春輝の世話をし始める。これだけでもツッコミどころ満載なのに、一度は「帰れ」と真璃子に塩を投げつけた春輝の母・冴(麻生祐未)といつの間にか仲良くなっているという謎の展開が繰り広げられた。しまいには、居間で真璃子と春輝のキスシーンが始まったと思ったら、ドアの陰から冴が無表情のまま2人を見つめていた。いろいろ起こりすぎて、何がなんだかわからない。
一家3人全員が不倫している(もしくは足を踏み入れている)というハチャメチャな設定でぐいぐい突き進んだこのドラマも、いよいよ次回で最終回を迎える。熱心に視聴していた視聴者からは「ツッコミどころ満載で楽しかったのに、終わるのは本当に悲しい」「10回じゃ物足りない」「バカバカしい脚本・演出を役者さんが大まじめに演じてくれるのが良かった」など、終わりを惜しむ声が続出している。最終回も、結末にふさわしいトンデモ展開であることを期待したい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)