織田裕二が主演を務める連続テレビドラマ『SUITS/スーツ』(フジテレビ系)の第9話が3日に放送され、平均視聴率は前回から0.6ポイント減の9.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。前回は3週間ぶりに2桁に復帰したが、2週続けて2桁を維持することはできなかった。
この作品は、勝つためには手段を選ばない敏腕弁護士・甲斐正午(織田)と、驚異的な記憶力を持つが弁護士資格を持たない鈴木大貴/大輔(中島裕翔)がバディを組み、数々の案件を解決していく弁護士ドラマ。第9話は、問題のある社員を穏便に辞めさせたいという会計事務所からの依頼がテーマとなった。
依頼主は、甲斐らが働く「幸村・上杉法律事務所」の顧問会計事務所の代表を務める華村百合(石田ひかり)。同事務所のエース会計士・大河原忠(西村まさ彦)が実は無資格であることがわかったため、事実を公にせずに大河原に退職してもらいたい、というのが華村の依頼だった。ところが調べていくうちに、華村には大河原をクビにしなければならなかった本当の理由があったことが判明する――という展開だった。
放送後の視聴者の反応は、真っ二つに分かれた。「先週に続いておもしろかった」「最初からこういう話が続けばよかったのに」と評価する声と、「ご都合主義すぎてひどい」「あり得ない展開が多すぎる」「話を難しくしてそれらしく見せているが、よく考えたら話が成立していない」といった批判の声との両方が上がっているのだ。
まず、肯定的な意見について取り上げよう。序盤から中盤の回がスッキリしなかったのに比べて、第8話以降は「甲斐と鈴木がタッグを組んで悪に勝つ」という図式が明確に打ち出されており、わかりやすいおもしろさが追求されていることは間違いない。警備員にカネを渡して犯罪に目をつぶってもらうなど、勝つためなら少々汚い手を使う甲斐の剛腕ぶりも目立っていたし、鈴木の天才的な記憶力もフルに発揮された。「甲斐と鈴木がコンビで案件を解決する」というこのドラマの枠組みがガッチリと生かされたことで、ようやく作品として形になってきた観がある。
その半面、多くの視聴者が指摘している通り、脚本は穴だらけであった。証拠を得るため不正にビルに侵入した鈴木を捕まえた警備員が、「たまたま」カネを受け取って侵入者を逃がす悪い人間だったり、かと思えばそんな悪徳警備員の個人情報を「いつの間にか」「謎の手段で」甲斐が調べ上げていたりと、あまりにも都合のいい展開が続いたからだ。偽会計士の大河原が「たまたま」鈴木と同じ驚異的な記憶力を備えており、書類を一字一句記憶できるという設定も、あまりにもできすぎだ。
また、「華村率いる会計事務所がダミー会社を次々につくり、クライアントに水増し請求していた」という設定も、よく考えたらさっぱり意味がわからない。しかも、「幸村・上杉法律事務所」にまで同じことをしていたというのだから、ますます意味不明だ。弁護士事務所相手にインチキな契約書をつくり、弁護士事務所がそれに気づかず毎年言われるままに必要以上のカネを振り込んでいたなんてことがあるものだろうか。さすがにそれは双方ともバカすぎる。
しかも、劇中で幸村チカ(鈴木保奈美)が話していたことによれば、華村の事務所は「幸村・上杉法律事務所」に年間10億円もの売り上げをもたらしているらしい。いくらなんでも、会計事務所が弁護士事務所に払う顧問料が10億円というのは高すぎると思うが、まあいい。もし本当に10億円の売り上げがあるのだとしたら、さすがに幸村も甲斐も、不正を暴いて10億の売り上げをフイにするより、少々の不正には目をつぶって年間10億の売り上げを維持しようと考えるはずだ。不正を暴き、会計事務所を社会的に葬り去った甲斐と幸村は乾杯して悦に入っていたが、年間10億円の継続収入を失ってのんきに乾杯している場合だろうか。
このように第9話は、一見するとおもしろいが、よくよく考えると話がほとんど破綻している回だったといえる。とはいえ、「多少無理な展開になったとしても視聴者を楽しませよう」という作り手の意図は感じる。いよいよ次回は、甲斐の過去にまつわるエピソードが描かれる一方、鈴木が無資格の偽弁護士であることが幸村にバレてしまうという波乱の展開になるようだ。シーズン2を予想する声も少なくないが、まずは「織田裕二と中島裕翔のコンビが最後の最後に勝つ」という王道ストーリーを最後まで貫いてほしい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)