杉咲花が主演を務める連続テレビドラマ『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)の第9話が14日に放送され、平均視聴率は前回から1.5ポイント増の11.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)だったことがわかった。最高視聴率を記録した初回(12.1%)に次ぐ数字で、最終回に期待した人が多かったことがうかがえる。
このドラマは、あらゆるものが見える能力を持つ派遣社員・的場中(まとば あたる/杉咲花)が、その能力を駆使してイベント会社の社員たちが抱える悩みを解決していくお仕事コメディー。最終回ではアタルの周囲の人々に再び悩みや難問が持ち上がるが、占いの能力を封印したアタルに相談することもできず、それぞれに問題を抱えたままイベントの本番を迎えた――というストーリーが繰り広げられた。
結末は実に平凡なものだった。アタルは、イベントで生じたトラブルを立て直すために「占い」の能力を解放。ついでに社員一人ひとりを占って助言を送る。よくわからないうちに「派遣社員なんてしてる場合じゃなく、自分に与えられた占いの能力を活用して人々を救うのがアタルの運命だ」みたいな話になり、アタルはあっさり会社を辞める。
その後アタルはビルにふらりと入ってどこかの会社を訪ね、いぶかしむ社員らに向かって「皆さんを見ます。ハケン占い師アタルです」と宣言。そのままエンディングとなった。ネット上には「ほっこりしていて良かった」といった声が少なくない。このドラマのタイトルである『ハケン占い師アタル』は、これまでずっと「派遣社員で占い師でもあるアタル」を意味していたが、ラスト数秒でその意味が「派遣されて客先に出向く占い師のアタル」に変わった。まあまあ悪くないオチだ。
ただ、結局のところこのドラマは、この「オチ」ありきで組み立てられたのではないかという気もする。この作品に見え隠れしていたさまざまな違和感は、そう考えたほうが納得しやすい。
たとえば、視聴者の誰もが思っていた「アタルの占いは占いではなく超能力ではないのか」という問題もそうだ。最終回でも、アタルが得意としていた他人の考えを読み取る行為を「占い」と称する場面があった。普通はそれを占いとは呼ばない。
だからといって『ハケン超能力者アタル』ではどうもピンと来ない。その結果、やっていることは超能力なのに占いを自称するというアンバランスな設定になってしまったのではないだろうか。
アタルを派遣社員に設定したのも、ダブルミーニングによるオチを最後にやりたかったからだろう。アタルが派遣社員である必然性はドラマのなかにはひとつもなかった。むしろ、派遣社員であることによってストーリーに無理が生じていた。
そのひとつは、アタルの母・キズナ(若村麻由美)がアタルの勤め先に勝手に退職届を出そうとしたこと。退職届を出すのはいいが、それを出す先はアタルが働くイベント会社ではなく、派遣元の会社である。ところが、大崎課長(板谷由夏)も代々木部長(及川光博)もそんなことには一切触れない。視聴者からは「もしかして脚本の遊川和彦は派遣社員のしくみがわかってないのでは」という声すら上がった。
最終回でも、大崎らにそそのかされたアタルはあっさり退職を決断し、会社を去った。いやいや、派遣社員なんだから、「今日辞めます」と上司に告げて辞められるものではないだろう。正社員だって今日の今日辞めるわけにはいかないが、話としてはまだわかる。だが、派遣社員が「仕事を辞めます」と伝える先は、繰り返すようだが派遣先ではなく派遣元である。
つまり、どう考えてもアタルを派遣社員にするより正社員にしたほうがストーリー上の理屈が通ったはずなのだ。ラスト数秒のオチのためにドラマ全体を無理のある設定にするのは、果たして正しかったのだろうか。アタルが最後に「ハケン占い師アタルです」と名乗るのについても、「あれは派遣ではなく押し売りだろう」とのツッコミの声が上がっている。『ハケン占い師アタル』のタイトルありきで、最後まで無理のある脚本になってしまったのではないか。
とはいえ、少なからぬ視聴者が心配していたバッドエンドにはならなかったのはよかった。これで遊川氏が“得意”とするバッドエンドになっていたら、それこそ無理やりすぎるからだ。「いい話風」に終わったことで、「遊川和彦にしては普通すぎた」「すっかり毒気の抜けた人になっちゃったな」などと揶揄する声もあるが、まあそれも期待の裏返しといえよう。遊川和彦が脚本を手掛けたドラマが始まるたびに「まさかバッドエンドじゃないだろうな」といちいち身構えてしまうのも、それはそれで楽しい。次回作にも期待したい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)