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短期集中連載「平成30余年のテレビドラマ史」第7回

竹野内豊降板後に西内まりやで惨敗…フジテレビ“キャスティング先行”ドラマの功罪

構成=白井月子
竹野内豊降板後に西内まりやで惨敗…フジテレビ“キャスティング先行”ドラマの功罪の画像1「Getty Images」より

 5月1日、いよいよ新元号「令和」が施行され、「平成」時代が幕を閉じた。

 平成元年時の“月9”枠は『君の瞳に恋してる!』(主演・中山美穂)、NHK大河ドラマは『春日局』(主演・大原麗子)、NHK朝の連ドラは『純ちゃんの応援歌』(主演・山口智子)であった。一方、平成最後の月9は『ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜』(主演・窪田正孝)、大河は『いだてん~東京オリムピック噺~』(主演・中村勘九郎、阿部サダヲ)、朝ドラは『なつぞら』(主演・広瀬すず)である。

 この30年余の平成の御代、ドラマは時代を映し、またドラマが時代に影響を与えもし、数々の名ドラマ・迷ドラマが生まれた。この間、ドラマはどう変わり、そして何が変わらなかったのか、ニッポンのドラマに精通した2人の猛者が語り尽くす。

 ひとりは、テレビドラマ研究の専門家で、『ニッポンのテレビドラマ 21の名セリフ』(弘文堂)などの著作もある日本大学芸術学部放送学科教授の中町綾子氏。対するもうひとりは、本サイトにて「現役マネージャーが語る、芸能ニュース“裏のウラ”」を連載する某芸能プロマネージャーの芸能吉之助氏。

 芸能界の“オモテ”を知る女性研究者と、“ウラ”を知悉する現役マネ。この両者は、平成のドラマ史をどう見るのか? 平成31年から令和元年をまたぐゴールデンウィークの短期集中連載として、全10回を一挙お届けする。

 連載第7回目のテーマは「アイドルドラマ」。フジテレビに限らず、ドラマに対してしばしばなされる批判に「キャスティング先行」があるが、さて、それは本当に悪いものなのか? 「“月9”ブランドの崩壊」を決定づけた“アノ作品”を取り上げつつ考察していく。

【対談者プロフィール】
中町綾子(なかまち・あやこ)
日本大学芸術学部放送学科教授。専門はテレビドラマ研究。文化庁芸術祭テレビドラマ部門審査委員、 国際ドラマフェスティバルinTokyo 東京ドラマアウォード副審査委員長、ギャラクシー賞テレビ部門選奨委員を務める。“全録”(全チャンネル録画)できるHDDレコーダーがなかった時代から、研究室に5台以上のレコーダーを設置してドラマを見まくり研究してきたというドラマ猛者。

芸能吉之助(げいのう・きちのすけ)
弱小芸能プロダクション“X”の代表を務める芸能マネージャー。芸能ニュースを芸能界のウラ側から解説するコラムを「ビジネスジャーナル」で連載中。ドラマを観るのも語るのも大好き。最近の推しドラマは『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK総合)。

竹野内豊降板後に西内まりやで惨敗…フジテレビ“キャスティング先行”ドラマの功罪の画像2「Getty Images」より

“キャスティングありき”のやり方が最悪の形で崩壊

――では、引き続き2010年代から現在までの月9のお話をお聞きしたいと思います。印象的なドラマを挙げるとするとなんでしょうか?

中町教授 それが……ないのよね(笑)。あまり熱心に見れていなかった。

吉之助 ははは。ぼくは、逆の意味で印象に残っているのは『突然ですが、明日結婚します』(フジテレビ系、2017年、主演・西内まりや)。制作過程もドラマの出来栄えも、なかなかでしたね……。主役に内定していた役者さんが急に辞退しちゃって。なんとかスケジュールが空いてた西内まりやちゃんと、演技未経験というflumpoolのボーカル・山村隆太くんが抜擢されて急ごしらえで作られたドラマだったんですよね。西内まりやちゃんはなぜか、主題歌も歌ってました。

中町教授 どれくらいの段階でのことだったんですか?

吉之助 通常ならば、いろんなことが決定してそろそろ撮影に入らなければいけない……というくらいの時期になっての降板劇だったみたいですよ。確か、フジ側が用意した企画案に、当初内定していた竹野内豊さんの事務所サイドが納得できなかったんですよね。“キャスティングありき”で作ってきたフジのやり方が、最悪の形で崩壊しちゃったパターンでしょうね。局としては、「来年の4月に主演でいかがでしょうか?」と、とりあえず人気俳優のスケジュールを押さえて、事務所側は「じゃあ企画がよければやります」という感じでとりあえずはスタートする。しかし、話が進んでいくなかで、いい企画がなかなか出てこないまま時間だけが経ってしまい、結果、話が頓挫するというね……。まあ、月9に限らずたまにあるのことなのですが。

 昔は、それでもうまく回ってたんですよね。いい企画がぽんぽん出ていたし、数字もよかったから役者さん側にも出るメリットが大きかった。だから、いろいろとウラ側で問題は生じつつも、常に安定して良作を世に送り出してこられた。だけど最近は、だんだん歯車が狂い始めてきた。そのウラで、月9全盛期は視聴率的には目立たなかったけど、まず“企画ありき”で制作を開始し、しかるのちにキャスティングをハメていく……というやり方を取っていたTBSが、いまや「ドラマのTBS」として安定しているのが、なんとも皮肉です。

竹野内豊降板後に西内まりやで惨敗…フジテレビ“キャスティング先行”ドラマの功罪の画像3『突然ですが、明日結婚します DVD BOX』(発売:ポニーキャニオン)
竹野内豊降板後に西内まりやで惨敗…フジテレビ“キャスティング先行”ドラマの功罪の画像4伝統演劇では“キャスティング先行”はむしろ“当然のこと”であり、そのこと自体が批判されることはまずないのだが……。(画像はGetty Imagesより)

“キャスティング先行”は悪か?

中町教授 でも、“キャスティング先行”というやり方自体は、別にダメなことではありませんよね?

吉之助 そうなんですよ。そこは非常に誤解されがちなところで。だって視聴者は、「スターを見たい!」と思ってテレビを見てくれるという部分もあるわけで、そこの部分を安易に否定することはできない。で、出演依頼が殺到する人気俳優に人気枠に出てもらうためには、やはり「企画はまだ決まってないけど、とりあえずスケジュールは押さえておく」ということも、仕方がないことであって。

中町教授 演劇というものの歴史を考えてみたってそうですよね。演劇では、まず劇団員が決まっていて芝居を書き下ろすことも多いですし、歌舞伎なら、まずは役者がいて、一方で歴史をくぐり抜けてきた、過去に何度も上映された演目がある。で、“有名なこの演目をやれるまでにこの役者が成長した”とか、“この年齢だからこの出し物ができる”ということで観賞している。ファンは、「ご贔屓のスターを見たい」と思って劇場に足を運ぶわけですから。

吉之助 ドラマも同じですよね。制作側が、人気のスターをまず捕まえて、「テレビに出したい」「こんな作品に出てほしい」と思うのは全然間違っていない。極言すれば、それがテレビマンの仕事だっていうことも可能で。

中町教授  作り手側だってそうですよね。脚本家にしても、制作のモチベーションがどこから生まれるのかというと、「この人を輝かせたい」「この人がこういう役を演じたらどうなるだろう?」という欲求だって大いにある。脚本家の坂元裕二さんインタビューで、自分が70歳、80歳になって脚本を書いている姿は想像できないけれど、「40歳になった広瀬すずのセリフを書きたいなとは思うんですよね」ということをおっしゃっていて。非常に印象に残っています。(この発言の出典は、Yahoo!ニュースの2018年9月23日配信記事『テレビドラマからこぼれているものを書きたい』における内田正樹によるインタビュー記事より)

吉之助 さすが、いいこと言うなあ〜(笑)。だから、先ほどの『突然ですが、明日結婚します』のケースでも、“キャスティング先行”がダメなのではなくて、キャスティングを決めたあとに、「ちゃんと企画を落とし込めなかったこと」にこそ問題があるのだと思います。初めに押さえていた役者さんを口説けなかったというのは、それに値するような企画をちゃんと持っていけなかった、脚本を作れなかったということ。それこそが問題であり、この場合のフジテレビ側のミスなわけです。

人気アイドルのキャスティング先行ドラマは間違っていない

――特にジャニーズアイドルや人気の若手イケメン俳優がドラマに主演すると、しばしば「またキャスティング先行かよ」などとSNSやネットメディアで叩かれがちです。では、そういったアイドル主演ドラマについてはどう思われますか?

吉之助 「“輝いているスター”をテレビで見たい」という視聴者の欲求に応える、という観点でいうと、そういった人気のアイドルを出演させるというのは、全然間違ってないのではないでしょうか。で、「そういったスターを使って、何をやるか」がすごく大事なわけです。もちろん、演技力がビミョーな方もなかにはいますよ(笑)。でも、いいじゃないですか。それを脚本や映像、演出で面白いものにすることこそ、制作側の仕事なわけで。例えば、演技がものすごくうまいけど地味で無名な人ばかりのドラマがゴールデンで放送されたとして、多くの一般視聴者がどこまで興味を持ってくれるかというと……。ぼくはそういうドラマも好きなんで、見ると思いますが(笑)。

中町教授 フジテレビのドラマが花開いていった過程で、「ボクたちのドラマシリーズ」という、1990年代前半に存在した少年少女向けのドラマシリーズも忘れられません。『その時、ハートは盗まれた』(フジテレビ系、1992年、主演・一色紗英、共演・内田有紀/木村拓哉)、『白鳥麗子でございます!』(フジテレビ系、1993年、主演・松雪泰子)などなど……アイドルが多く出演していて、経験の少ない俳優の演技をドラマティックに見せるカメラワークや演出がすばらしくて、若い俳優のみずみずしさともあいまってすごくいいドラマになっていたんですよね。

吉之助 「月曜ドラマランド」なんかもよかったですよね。『あんみつ姫』(フジテレビ系、1983・1984年、主演・小泉今日子)大好きだったなぁ。

中町教授 1980年代のアイドルドラマ枠ですよね。昔からフジには、“チャレンジ枠”もたくさんありましたよね。1990年代前半に「日曜ドラマハウス」という枠もあって。日曜のお昼に、関東ローカルで単発ドラマを放送していたり。ほかに深夜枠では、「美少女H」なんていうのもありました。そこから出てきて大成している方もいらっしゃるんじゃないかな。

吉之助 それに、アイドル主演ドラマがコケると、「たいして演技のうまくないジャニーズアイドルを主役に据えるのはやめたほうがいい」なんて、すぐネットで叩かれますけど、でも最近は、そんなに下手な人いないよね。嵐の二宮くんや大野くんはいわずもがな、亀梨くんとか山P、堂本剛くんだって、みんな若い頃から上手かった。アイドルたちの中でも、いい枠に出演できる人というのはやはり、それなりに選ばれてきていますよ。芸能プロサイドから見ると、特にアイドルドラマの仕上がりがイマイチなのは、やっぱり制作側が役者さんの魅力を引き出しきれなかったという部分が大きいと思いますけどね。
(構成=白井月子)

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