テレビ番組もそうだが、CMは時代を映す鏡だ。その時どきの世相、流行、社会現象、そして人間模様までをどこかに反映させている。
最近の“見るべきCM”の傾向としては、映画やドラマのような「物語仕立て」になっているものが多い。また、「上質なユーモア」もキーワードのひとつだ。
今年上半期に流されたCMの中から、注目作を選んでみた。
●ロト7(日本宝くじ協会)『私ではありません』
(無料動画サイト「YouTube」より)
会社は面白い。いろいろな人間がいるからだ。しかも学生時代のように、気の合う仲間とだけ付き合えるわけじゃない。特に上司はやっかいだ。成功は自分の手柄、失敗は部下のせいというタイプも少なくない。このCMの柳葉敏郎みたいに「すべて私の指示です。責任は私がとります」なんて言える上司はまれだろう。
でも、気をつけてほしい。上司は豹変する。柳葉も、得意先に名刺と間違えてロト7のマークシートを渡したのは自分なのに、「私ではありません」などと部下の妻夫木聡に罪を着せてくるではないか。
「君子豹変」という言葉は、急に態度を変える身勝手な振る舞いを指すことが多い。だが本来は、立派な人間ほど自分の間違いを直ちに改めるという意味だ。CMでは、柳葉がつい「キャリーオーバー」という言葉に反応して、ロト7に詳しいことが露見してしまう。この上司、果たして信じていいのか。部下の自己決定が試される瞬間、それも会社の醍醐味だ。
●ペプシNEX ZERO(サントリー)『桃太郎 エピソード・ゼロ』
(「YouTube」より)
童謡『桃太郎』では、桃太郎がイヌ、サル、キジに「お腰につけた黍(きび)団子」を与えて家来とし、鬼退治へと向かう。実は、戦(いくさ)装束である陣羽織の桃太郎が登場したのは明治期に入ってからだ。「強い国へ」という時代を反映したものである。ちなみに、それまでは2匹と1羽との主従関係もなかった。
このCMは、そのスタイリッシュな映像が見事だが、ここでの動物たちは桃太郎(小栗旬)の家来ではない。ナレーション代わりに流れる文章でも「仲間」と呼んでいる。いわば古来の桃太郎物語へと回帰しているのだ。
倒すべき敵は島の住民を脅かす「巨大な鬼の一族」。全身が赤黒く焼けただれ、ぶすぶすと煙を立ち上らせる姿は不気味で怖い。また彼らとこの「島」の関係も、なぜ侵略するのかも不明だ。