このCMを見ていると、時節柄か、ふと領土問題や集団的自衛権や同盟関係などホットな話題が頭をよぎる。「島」を襲った「鬼」だけでなく、「桃太郎」や「イヌ」たちは何を表象しているのか。よもや尖閣や中国軍や自衛隊や米軍ではあるまい。それはもちろん考え過ぎだけど。
●にゃんこ大戦争(PONOS)『ツルにゃんこ』
(「YouTube」より)
マイクを手にした小林幸子が、満面の笑みを浮かべて舞台に登場する。カメラが引く。全体が映る。おお、なんと巨大な白いツルに乗っているではないか。まるで『NHK 紅白歌合戦』の大仕掛けだ。いや、よく見るとツルじゃない。だって顔が「にゃんこ」だもん。
ゲームアプリ『にゃんこ大戦争』のCM『ツルにゃんこ』篇の楽しさを支えているのは小林だけではない。見事な曲紹介をしている芸人、アナログタロウの存在も大きい。アナログタロウは、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の名物企画『細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』で披露した「昭和歌謡曲の曲紹介」で人気に火がついた。このCMでも、歌が始まる前の短い時間に、「(小林が)一番よく使う電池は単三とのことです」と、どうでもいい、でも笑える情報が挿入される。
アーティストと称する歌い手たちが、自身をパロディ化したCMに出演したりすることはあまりない。演歌歌手、小林幸子の「皆さんが喜んでくれるなら」という、あっぱれなサービス精神こそ、いっそ大物の証左だろう。
●ソフトバンク『白戸家 「戦国」編』
(「YouTube」より)
当然のことだが、CMは映像と音声で成り立っている。たくさんのCMがランダムに流れる中、視聴者の注意を引くためにも耳からの情報、特に音楽は重要だ。
このCMで使われているのは映画『ゴジラ』(東宝/監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)のテーマ曲である。聴いただけでゴジラの雄姿が目に浮かぶ、懐かしくも迫力に満ちたメロディが、他社とのサービス競争をイメージさせる「合戦シーン」によく似合う。
今年は1954年の『ゴジラ』公開から60周年に当たる。ゴジラも還暦なのだ。また音楽を手がけた作曲家・伊福部昭の生誕100年でもある。さらに7月にはハリウッド製『GODZILLA』の公開が控えている。これから何かとゴジラが話題となり、そのテーマ曲が流れる機会も多いはずだ。
CMが既存の楽曲を使用する際、コンテンツとしてだけでなく、背後に広がるコンテクスト(文脈)をも取り込むことで効果は倍増する。この夏、“世界の怪獣王”の力を借りるという狙いは悪くない。
(文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授)