風邪に薬は不要というのは、医療の分野では長く常識であり、社会保障制度改革推進会議などでも「風邪薬を保険適用から外すべきか否か」という論議がされています。日本感染症学会や日本化学療法学会はガイドラインで、「風邪はほぼすべてウイルスを原因とするもので、抗菌薬は効かない」としています。
平成26年の診療報酬から「うがい薬のみの処方は保険適用から外す」ことになり、これだけでも医療費がかなり削減されたようですが、裏を返せば、うがい薬だけの処方はできないため、必要でなくても風邪薬を併せて処方することにつながってしまいます。
風邪薬が保険適用から外されれば、いまだに横行する風邪に抗菌薬を処方する迎合処方にも、歯止めをかけられるでしょう。
風邪薬が負のスパイラルを呼ぶ
これに対して肝心の患者側は、「海外ではたとえ常識でも、日本もマネする必要はない」と反対する声が多いようです。読者の中にも、風邪をひいたら医者から処方された薬を飲んで治すことが習慣化していて、強い反発を感じる方がいるかもしれません。
しかし、私はこの「風邪薬を保険適用から外す」という考えに賛成です。病気には「免疫力、自然治癒力で治すべき領域」と「病院で処方されて薬で治す領域」があることを知る、格好の機会になると思うからです。
特に小中学生がそれを実感することは大変重要です。自然治癒力を知らずに成長することは、大きな不幸です。薬に対する依存心ばかりが強くなって「薬の負のスパイラル」に陥りかねないからです。
それは、薬が手放せなくなる→耐性ができて効かなくなり量が増える→効果が弱いので、別の薬が加わり増えていく→副作用が出るので、そのための薬が加わる→体を壊す、と続きます。このスパイラルの入り口は、たいてい風邪です。
このように考えると、「風邪の薬を保険適用から外す」ことによって、「自分が持っている免疫力、自然治癒力で風邪を治す」経験をすることは、とても大切だと気づきます。風邪薬の保険適用について、今後の成り行きが注目されます。
国民総医療費が40兆円を超えたことで、日本では薬に対する古い常識を改めようという動きが活発になり、国民一人ひとりが、医療や薬に対する発想転換をしないといけない時期に差しかかっています。
今まで当たり前に飲んでいた風邪薬についても、本当に効いているのか、今一度考えてみることが、医療費削減の一歩になるのではないでしょうか。
(文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士)