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山本康博「なぜあの商品はヒットしたのか/しないのか」

流行のスマホ自撮り棒、実は30年前に発売されていた!なぜ時を経て今ヒット?

文=山本康博/ビジネス・バリュー・クリエイションズ代表取締役

なぜ今になってヒット?

 ところで、現在ヒットしている自撮り棒ですが、実は1980年代に日本で発売された過去があります。当時はまったくヒットせず、「日本の珍発明」として取り上げられるほどでした。

 では、なぜそんな商品が今になってヒットしているのでしょうか。それは一言でいえば「時代の変化」ですが、具体的には主に2つの要因があると思います。

 まずひとつに、携帯電話が普及した点です。カメラを持ち歩かなくとも、どこでも高画質の写真が撮れるようになりました。そしてSNSが普及したことにより、撮った写真を他人と共有したり、FacebookやLINEのアイコンに自撮り画像を使用する人が増加しました。それにより、一般の人々が写真を撮る機会が以前より格段に増えたのです。

 2つ目に、さまざまな便利グッズが開発されたことにより、「1人でなんでもできる時代」へと変化してきた点が挙げられます。少し前までは、集合写真を撮る時は人に頼んでいたはずです。しかし色々な便利グッズが開発され、自分1人でなんでもできる時代になったことにより、人に頼むことが億劫になったのではないでしょうか。また、他人に声をかけるよりも自分で撮影したほうが楽と思う人が増えたのかもしれません。

 そんな現代において自撮り棒は、「自分1人でなんでもしたい」という顧客の潜在ニーズを捉えた結果としてヒットしたのだと考えられます。もっとも、日本では人々のモラルが高いのが理由かは定かではありませんが、実際に若者が街中で使っているシーンはあまり見かけないのが現状です。

 以上からわかることは、ヒット商品は「素晴らしい潜在ニーズを捉えたアイデア」であっても、世に出すタイミングがとても重要で、早すぎても駄目だし遅すぎても駄目だということです。昔はまったくヒットしなかったものが、時代が変化し、ヒット商品に生まれ変わることがあるのです。さらに、その商品の危険性を改良しなければ公共空間では使用されにくい。

 自撮り棒は、商品がヒットするためのカギを探る上で貴重な事例だといえます。
(文=山本康博/ビジネス・バリュー・クリエイションズ代表取締役)

山本康博

山本康博

ビジネス・バリュー・クリエイションズ
代表取締役、損保ジャパン顧問。ブランドマーケッター。日本コカ・コーラ、日本たばこ産業、伊藤園でマーケティング、新商品企画・開発に携わり、独立後に同社を設立。これまで携わった開発商品は120アイテム、テレビCMは52本制作。1年以上継続した商品は計算すると3割以上、メーカー側でマーケティング実績35年。現在では新商品開発サポートのほか、業界紙をはじめとしたメディア出演や寄稿、企業研修、大学等でのセミナー・講義なども多数実施。たたき上げ新商品・新サービス企画立ち上げスペシャリスト。潜在ニーズ研究家。著書に『ヒットの正体』(日本実業出版社)、『現代 宣伝・広告の実務』(宣伝会議)、2016年スタンフォード大学 David Bradford 名誉教授、ボストンカレッジ Allan Cohen 教授の推薦書として、世界に向けて英著、 “Stick Out”a ninja in Japanese brand marketingを全世界同時発売開始。『Stick Out~a ninja marketer』(BVC)、現在ブレイク中で話題のAmazon書籍総合1位も獲得したベストセラー『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版)の一人として8月1日執筆など。

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