山形空港からJRさくらんぼ東根駅まで歩いてみた!果樹園と航空公園の絶景スポット
地方には、鉄道が直結せず、バスやタクシーなどでのアクセスが大前提という空港が多い。そんな直結駅のない空港から、その最寄り駅まで歩いてみる本連載。今回の第7回目は、山形県東根市の山形空港へ行ってみた。実践したのは2018年12月中旬と、かなり間が開いてしまっていることをお詫びしたい。当日の最高気温は5度。天候は晴れだった。
まず、山形県の地域事情からご説明したい。地域圏としては村山、最上、置賜、庄内の4つの地方に分かれており、日本海に面している庄内地方は、朝日連峰で分断されている。江戸時代は最上川の水運でつながっていたため、文化が隔絶することはなかったが、現在は自動車のナンバープレートも山形ナンバーと庄内ナンバーに分かれているように、地勢的には分断されているといっていい。
そのため航空需要も、酒田市や鶴岡市など庄内地方の主要都市からは庄内空港を利用する人が圧倒的に多い。他の3地域は山形空港がもっとも近いものの、庄内地方の人口が約27万人であるのに対し、村山、最上、置賜の3地方の合計人口は約80万人とおよそ3倍。しかし利用者数は、庄内空港の年約40万人に対し、山形空港は約34万人(いずれも2018年)と、逆転されている状況だ。
山形空港の歴史は戦中に遡る。旧海軍の「神町(じんまち)飛行場」として1942年頃より土地の収用が始まり、終戦後は米軍が使用。1956年からは自衛隊が演習場として使用していた。その後、山形県や県の経済界からの要望により、1964年に「神町空港」として滑走路1200mで開港。翌年に現在の山形空港に改称し、1969年からは陸上自衛隊が施設を利用している。
利用率が向上し始めたのは1970年代中盤から。1976年にジェット機(ボーイング737)が就航し、スピードが向上。1979年には大阪便、札幌便も就航し利便性が向上した。1981年には滑走路が2000mに延長し、1991年には年間利用客数が約70万人と、現在の約2倍に達している。
暗転したのは、1992年に山形新幹線が開業してから。ドル箱の東京便と完全に競合するこの新幹線は、山形市などの村山地方、米沢市などの置賜地方のニーズを吸い上げ、1999年に新庄駅まで延伸したことで、最上地方の需要もさらっていった。
さらに2002年から乗合バスの規制が緩和されたことで、山形市内から仙台空港へのアクセスバスも発達。JRでは山形駅から約2時間かかっていた区間が、バスで約1時間20分と短縮されたことで、便数の多い仙台空港への流出が起き始めた。
もっとも、近年は復調の兆しを見せている。「おいしい山形空港」という愛称の是非とその効果は未知数だが、日本航空による東京(羽田)、大阪(伊丹)便のほか、フジドリームエアラインズ(FDA)による名古屋(小牧)便が2014年より、札幌(新千歳)便が2017年より就航。FDAはLCC(格安航空会社)ではないものの、比較的リーズナブルな価格で利用できるため、人気を集めている。
さて、山形空港へのアクセスは、アクセスバスと、予約制の空港ライナー(乗合タクシー)に限られる。空港ライナーは東根市、天童市、村山市など近隣の都市から400~800円で結ぶ。さくらんぼ東根駅からはワンコインで、利用の1時間前までに予約すれば利用可能だが、ほかは前日17時までの予約が必要というのが難点だ。今回は山形駅からアクセスバスで空港へと向かった。
山形空港からJRさくらんぼ東根駅まで、約3.5kmを歩く
山形空港の最寄り駅は、直線距離ではJR奥羽本線(山形線)の神町駅だ。駅から山形空港のターミナルビルまでわずか700mほどしか離れていないのだが、困ったことに間には滑走路を挟んでおり、アンダーパスなどショートカットするルートもない。なぜわざわざ、駅の反対側にターミナルを造ったのか、調べてみたがわからなかった。
神町駅は、東根市の代表駅である東根駅より早く開業した。戦前は旧海軍基地の、戦後も米軍キャンプの最寄り駅として栄え、当時は空港まで3kmほどの専用線が引き込まれていた。つまり、かつて山形空港にはしっかりとした「最寄り駅」があったことになる。結局、滑走路を迂回しなければならないため、距離的には新幹線が停車する隣駅のさくらんぼ東根駅と大差なくなってしまう。そのため、さくらんぼ東根駅までの約3.5kmを歩いてみた。
山形空港のターミナルはカウンターにレンタカーの受付、レストランに売店などが並ぶ、一般的な地方空港の雰囲気。サイズはかなりコンパクトだ。3階のほぼ全面を使用した天望デッキは、広々としていて開放感があるのが印象的だった。
ターミナルビルを出て駐車場を抜けようとすると、いきなり障壁が。歩道のゲートが閉まっていて、通れないのだ。仕方ないので車道に迂回するが、徒歩でアクセスする人のことなどまったく考えていないような仕打ちに、少し打ちのめされる。
その後は、えんえんと田園風景が広がる。サクランボかリンゴかわからないが、果樹園がひたすら広がる道を抜けると、山形県の消防防災航空隊や、大企業の工場の看板が出てくるものの、フェンスと樹木に覆われて中の様子はわからない。
さらに歩いて行くと「山形空港ひこうき公園」というスペースが現れた。いわゆる航空公園のようで、少し小高くなった丘の上からは滑走路がよく見える。ちょうど飛行機が飛び立ったので撮影してみたが、なかなか面白いアングルが撮れる。飛行機の写真が好きな人には絶好のポイントといえるだろう。
村山野川という小さな川を渡ると、果樹園と住宅地が交じった様相になる。交通量の多い国道13号線を渡ると、5分ほどでさくらんぼ東根駅の西口に到着した。駅の反対側に出てみると、こちらはかなり賑やか。コンビニや飲食店だけでなく、徒歩5分ほどの場所に大きなショッピングモールもあった。
徒歩に要した所要時間は約45分。雪がなければ、ちょっと長めの散歩といった程度の距離だ。フライトまで時間があるようであれば、自然豊かな風景を味わいながら、歩いてみるのも一興といえるだろう。
(文=渡瀬基樹)