今年6月に大阪で開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)において、日本は2050年までに「海洋プラスチックごみ」の流出ゼロを目指すことを宣言した。また、環境省は30年までにプラスチックごみの排出量を25%削減することを目標に掲げ、「レジ袋の有料化」という施策を打ち出して話題になった。
長年、日本のプラごみ対策は遅れているといわれてきただけに、国としては大きな一歩だが、一般のビジネスパーソンにはピンときていない人も多いのではないだろうか。プラごみが人や環境に与える影響について、専門家に聞いた。
海洋汚染を招くマイクロプラスチック
東京農工大学農学部環境資源科学科教授の高田秀重氏は、プラごみから発生する「マイクロプラスチック」が海洋汚染につながっていると話す。
「マイクロプラスチックとは、大きなプラスチックの破片が5mm以下にまで削られたものをいいます。海に流れ出たプラごみは紫外線や波によって劣化し、海の中を漂いながらどんどん削られていき、マイクロプラスチックになります」(高田氏)
マイクロプラスチックは海水中に溶けた化学物質を吸着して海を漂いながら有害化し、海洋汚染を招いている。さらに、世界各地の魚や貝の体内からマイクロプラスチックが検出されているという。
「魚や海辺に住む鳥たちがマイクロプラスチックを餌と勘違いして食べてしまい、命を落とすケースがとても多いです。我々も東京湾で釣ったカタクチイワシ64尾を調べたところ、49尾の体内から平均で1尾あたり2~3個、最大で15個のプラスチックが検出されました」(同)
プラスチックを取り込んだ魚や貝類は食卓に並ぶため、我々は知らず知らずのうちにプラスチックを口にしていることになるという。魚や鳥と違い、人間の場合は体内に取り込んだマイクロプラスチックは排出されるものの、だからといって安心はできないだろう。
「本当に注意しなければならないのは、プラスチックに添加されている有害化学物質です。たとえば、プラスチックの添加剤、あるいは添加剤が分解してできる『ノニルフェノール』という物質は、人間や動物の体内に入ると女性ホルモンのように振る舞い、ホルモンにかかわる病になりやすくするといわれています。女性の場合は『子宮内膜症』や『乳がん』の原因になることが懸念されている物質です」(同)
現在、日本では添加剤としてのノニルフェノールの使用は自主規制されていると思われるが、海外製のペットボトルのフタなどには添加されているので注意が必要だという。プラスチックにはノニルフェノール以外にもさまざまな有害化学物質が添加されているが、いずれも単独では健康被害を及ぼすほどの濃度ではない。しかし、複合的な影響や長期的な摂取による影響については、あまり研究が進んでいないのが現状だ。
「むしろ、長い間プラスチックを使っている私たちは、自ら人体実験をしているようなものかもしれません。ヨーロッパで行われた大規模な調査では、成人男子の精子数が過去40年で半減しているという報告もあります【※1】。もちろん、ほかの原因も複合的にかかわっていますが、プラスチックに使われた添加剤による環境ホルモンの影響も疑われていますね」(同)