高齢者の増加に伴い増え続けている医療費は現在、年間約42兆円。厚生労働省の試算によると医療は今後もさらに増え、2040年には約70兆円にも達するという。国は医療費の削減を目指し、市販の薬でも同様の効果がある医薬品については、公的医療保険の対象から除外する方向で検討を進める方向だ。具体的には、風邪薬や花粉症治療薬、湿布薬、皮膚保湿剤などの軽症薬が対象である。これらの薬が医療機関で保険適用から外され全額自費負担となれば、患者にとっては風邪などの軽症の場合、市販薬のほうが利便性は高くなる。それによって、市販薬の需要が現在よりも高まると予想される。
しかしながら、風邪薬などの市販薬にも重篤な副作用を招く可能性があり、自己判断での薬の選択には注意が必要である。
抗アレルギー剤の副作用
鼻炎薬、風邪薬、酔い止めに含まれる抗アレルギー剤は、ジフェンヒドラミンやポララミンなどの「第1世代」と呼ばれる抗ヒスタミン薬が多く、特定の疾患を持った人などは症状悪化を招く恐れがある。注意が必要となるのは、以下のようなケースである。
(1)閉塞隅角緑内障の患者では、眼圧が上昇し、症状を悪化させることがある。閉塞性隅角緑内障は、日本人の罹患数は比較的少ないといわれているが、急激に眼圧が上がれば失明の可能性もある。
(2)前立腺肥大など下部尿路閉塞疾患のある患者では、排尿困難、尿閉等が現れるおそれがある。尿閉の症状が進行すると、腎不全や腎盂腎炎など腎機能障害を起こすことがある。
(3)第1世代の抗ヒスタミン薬は、小児が服用すると熱性痙攣を誘発する可能性があるため、熱性痙攣の既往がある場合は、服用を避けたほうがよいだろう。
医療費削減のために“セルフメディケーション(自主服薬)”が推奨されることは理解できるが、その一方では消費者に向けて、薬の副作用や使用上の注意について十分な情報提供がされるべきである。「クスリはリスク」であることを忘れず、市販薬を購入の際にはドラッグストアの薬剤師、登録販売者からしっかりと説明を受けてほしい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)