更年期の体の不調、女性ホルモン「エストロゲン」不足も原因…生理不順、肌の老化など
エストロゲンは主に女性の卵巣から分泌されるホルモンで、卵巣内の卵子を成熟させ、妊娠に向かわせるのに大切なホルモンです。
女性のエストロゲン分泌は、大きく4つのステージに分けられます。初潮を迎える思春期から次第に量が増え、30代くらいまでが性成熟期といわれ、一番分泌量の多い時期になります。その後、経過や時期に個人差があるものの、40代後半くらいから分泌が不安定になり、量が減ってきて、更年期に入ります。
エストロゲンは主に卵巣から分泌されると先ほどご説明しましたが、更年期以降、卵巣でのエストロゲン生成はほぼゼロになり、副腎といわれる腎臓の上にちょこんと乗った臓器や末梢の脂肪組織でつくられます。しかし、その量は卵巣がつくるエストロゲンから比べると微々たるもの。更年期以降エストロゲンが減少してくるのに伴い、身体に今までは感じたことのない変化や不調が出てきます。
エストロゲンをはじめ、性ホルモンといわれるホルモンの多くは、原料としてコレステロールを使います。このため、極端なダイエットにより油分を断ってしまったりすると、生理が遅れたりいったん来なくなってしまったりと、ホルモンバランスが乱れてしまうことになります。こういった事例からも、バランスの取れた食事というのは、ホルモンバランスを良好に保つためにも、とても大切だということがよくわかります。
エストロゲンの働きは多岐にわたります。子宮や卵巣で妊娠にかかわるのはもちろん、以前も述べた肌のはりや肌理を整え、美しい肌に保つ作用、骨や脳、血管を健康に保つことも挙げられます。
更年期になりエストロゲンの量が減ってくると、症状はさまざまですが、自覚症状が出ててくることがあります。よく知られているのは、ホットフラッシュ、めまい、疲れやすさ、肩こり、気分の浮き沈み、頭の中にもやがかかったような感じ、物忘れなど。皮膚の老化、くすみやしみ、しわ、たるみなども起こるので、「朝、鏡を見て自分の見た目の変化にびっくりしました」とおっしゃる方もいます。
更年期から老年期へ
更年期以降、エストロゲンが低下した状態が続きますが、更年期症状はある程度時間がたつと落ち着いてきます。しかし、更年期から老年期に入ると、エストロゲンが低下したことによりコレステロールや中性脂肪が高くなることもあいまって動脈硬化が進行し、脳卒中や心筋梗塞のリスクが増えてきます。
また、同様にエストロゲンが減少することにより、認知症、骨粗しょう症が進行し、人によっては太ももの骨や背骨が骨折し、日常生活に影響が出ることや、ひどい場合はそれが悪化し寝たきりになる可能性もあるのです。
太古の時代の女性の寿命と比較すると、もちろん男性もですが、女性の寿命は飛躍的に長くなりました。しかし、更年期を迎え、エストロゲンが体内で枯渇する状態になることを避けることは誰にもできません。一方、長寿になるに従い、乳がんなどが増える傾向にありますが、昔と異なり長期にわたりエストロゲンが体内に存在することが乳がんのリスクになる、という側面もあります。「人生100年時代」といわれますが、良い健康のままで寿命を全うし、最後まで自分らしい生活を楽しんで送ることを誰しもが願っています。そのためには、ホルモンバランスを更年期からうまくコントロールすることが、大切なポイントの一つとして挙げられるのです。
(文=飛田砂織/クリニックシュアー銀座院長、医師・医学博士)