乳がんで逝去・小林麻央さん、初診の「しこりなので心配ない」信用を後悔…がんと食事
歌舞伎俳優の市川海老蔵さんの妻でフリーアナウンサーの小林麻央さんが、去る6月22日に彼岸へ旅立たれた。享年34歳。
麻央さんは2003年、『めざましどようび』(フジテレビ系)のお天気キャスターを皮切りに、その後『NEWS ZERO』(日本テレビ系)のキャスターなどを務め、10年3月に海老蔵さんと結婚。11年に長女を、13年には長男を授かり、順風満帆の人生であった。
しかし、14年に麻央さんの体に異変が見つかる。
・14年2月:人間ドックで「五分五分で乳がん」と指摘されたが、再検査の結果、経過観察となった。しかし、生体検査(細胞診断)は行われなかった。
・14年10月:自身で「乳房のしこり」に気づき、病院で乳がんと診断された。
・16年6月9日:海老蔵氏が「(麻央さんが)進行性の乳がんで闘病中」と公表。
・同年9月1日:麻央さんがブログ「KOKORO」を開設。
・同年9月20日:肺と骨への転移を告白。
・同年10月3日:がんの進行度「ステージ4」との書き込み。
・同年11月:「前向きに生きる姿が、がんと戦う人々をはじめ、世の中に勇気を与えた」として英国BBC放送より、「今年の100人の女性」のひとりに選ばれる。
・17年5月28日:海老蔵さんが取材に応え、「顎への転移」を公表。
・同年5月29日:退院して、在宅医療に。
・同年6月20日:最後のブログを更新「…皆様にも、今日笑顔になれることがありますように…」
・同年6月22日:逝去
ブログを通しての夫、子供たちをはじめ、家族や周囲に対する麻央さんの言動は優しさと慈愛に溢れており、麻央さんの高潔なお人柄がひしひしと伝わってくる。麻央さんのブログの読者はなんと250万人もいたという。
ブログのなかで、麻央さんは、
「もっと自分の身体を大切にすればよかった」
「もうひとつ病院に行けばよかった」
「あのとき、信じなければよかった」
などという後悔の念も吐露している。
これは14年2月の人間ドックで、乳房の「腫瘤」が見つかったとき、最初に診察した医師が「授乳中のしこりなので心配ない」と言ったことを「信用したこと」と、そのとき「半年後にもう一度検査を」と言われたのに、検査を受けたのが同年10月(乳がんと診断)と「2カ月遅れたこと」を指しているようだ。
食生活の欧米化
がんという病気は、診断や治療が2~3カ月遅れても、生命の予後が大きく左右される代物ではない。がん細胞が体内に1個発生して医学的に発見できる最小の大きさ(直径0.5センチ=1グラム=がん細胞10億個)になるまで、10年から30年、平均約19年かかるとされている。
1960年から9月は「がん征圧月間」と銘打って、官民あげてがんの予防、早期発見が叫ばれているし、がん検診を受ける人も年々増加しているのに、がん死者数は減る気配はない。それどころか、どんどん増加し、いまや年間のがん死者数は36万人を超えている。ちなみに75年のがん死者数は約13万人である。
60年以降、日本人の食生活は、米・芋類の摂取が減少し、肉、卵、牛乳、バター、マヨネーズなどに代表される高脂肪食、いわゆる欧米食の摂取が増加してきた。それとともに日本人に多発していた胃がん、子宮がんは減少していき、欧米人に多い肺、大腸、乳、卵巣、子宮体、前立腺、すい臓、食道などのがんで亡くなる人が増えてきた。
脂肪(コレステロール)からは卵巣のなかで女性ホルモンが、睾丸のなかで男性ホルモンが合成される。女性ホルモンの過剰は、乳がん、卵巣がん、子宮体がんの、男性ホルモンの過剰は、前立腺がんの発生を誘発する。
よって今、30~50代の若い人たちに蔓延しているがん対策として、「早期発見」をするに越したことはないが、がんという病気を生物学的にみた場合、「早期発見」でも遅すぎるのである。
がん診断はある日突然なされるが、「潜伏期間は約20年」もあるのだから、毎日の食生活で予防することがもっとも大切なのである。
食生活の改善の取り組み
「アメリカ人はがん、心筋梗塞、脳梗塞、肥満で悩む人が多く、医療費が国の財政を圧迫する」として1975年、アメリカ上院に「栄養改善委員会」が設けられ、医学者と栄養学者に全世界の栄養状態と疾病の発生状態を調べさせて、1977年に米国民に向けて発表されたのが、5,000ページにも及ぶ『Dietary Goals for the United States(米国の栄養目標)』である。
これを読んだマクガバン上院議員(当時)が、「我々は馬鹿だった。造病食、殺人食を食べていた」と言って涙したのは、有名な話だ。
『Dietary Goals for the United States』は要約すると、
(1)果物、野菜、未精白の穀物(玄米、黒パン、とうもろこし)、魚(介)類、植物油、脱脂粉乳を多く摂取し、
(2)肉、卵、牛乳、バター、砂糖、塩、脂肪の多い食物は少なめに摂ること
というものである。
この「通達」により、日本食は「世界一の健康食」とのお墨付きが与えられ、アメリカには多くの和食レストラン、寿司屋、天ぷら屋がつくられ、家庭内でも和食を食べる人が多くなった。
その結果、34年後の2011年には米国人のがん死亡者数は約17%、心筋梗塞による死亡者数が約58%も減少した。
日本も国家レベル、行政レベルでこうした食生活の改善の取り組みを行わないと、早晩、10代の後半で乳がんなどの欧米型がんを患う患者が出てくることが懸念される。
(文=石原結實/イシハラクリニック院長、医学博士)