上司や部下、同期、取引先など、ビジネスは多くの人と関わることで成り立っている。そのため、人間関係を円滑にすることがなにより重要だ。
そこで知っておきたいのが、付き合う相手の生まれ順である。生まれ順は人格形成に大きな影響をもたらし、昔から「長男・長女はしっかり者」「次男・次女は自由奔放」などといわれるが、実際のところはどうなのだろうか。
おおらかな長子、自己肯定感が乏しい第2子、甘え上手な末っ子
まずは、ざっと生まれ順による性格の違いを把握しておきたい。精神科医で『きょうだいコンプレックス』(幻冬舎)著者の岡田尊司氏は、次のように指摘する。
「まず知っておかなければならないのは、『人格形成は、親の関心がどのくらい注がれたかによって異なる』ということです。長子として特別に大切にされた人は、自己肯定感や安心感が高く、おおらかでガツガツせず、のんびりした性格を示しやすいといえます。その半面、わがままだったり、依存的だったり、人がよすぎて脇が甘く、だまされやすいところがあります」(岡田氏)
長子は、ほかのきょうだいと異なり、親の愛情を独占する期間を持っている。そのため、自己肯定感が強く、大きな夢や野心を持つことが多い。また、弟や妹の面倒を見る役回りも与えられるため、リーダーシップを発揮しやすい。「長男・長女はしっかり者」というのは、そのような背景からきているようだ。
逆に、第2子は親の愛情を独占する期間がないことになるが、人格形成に与える影響は、どのようなものだろうか。
「第2子や中っ子は、概して自己肯定感が低く、コンプレックスを抱えやすいとされます。その場合、克服の仕方には2通りあります。まず、優れた者の2番手に甘んじ、分をわきまえることでうまく妥協するタイプ。そして、優位に立つ者に対して、『自分が成り代わってやろう』という野心を持ち、自己主張の強いタイプです。
また、反骨精神や反権威的な性質が強い傾向も見られます。いずれの場合も、長子よりも自立していて、物事をシビアな目で見て、簡単には人を信じない性質が多いとされます」(同)
「次男・次女は自由奔放」というイメージは、長子ほど親の愛情を受けられず、自己肯定感が弱いがゆえの反発から生まれるものなのである。また、末っ子には、長子や第2子とは、また違った傾向が見られるという。
「下のきょうだいから脅かされず、親からかわいがられることが多いので、安心感が高く、甘え上手の人が多いとされます。同時に、上のきょうだいの顔色を見ながら立ち回ることを覚えるため、対人的な調整能力に長けていることが多いといえます」(同)
ベストな交渉相手は長男・長女?
もっとも、当然ながら、しゃくし定規に生まれ順で人格を判断することはできない。長子でも「下のきょうだいのほうがかわいがられた」という場合は、「王位を奪われた王様」の悲哀を味わうことになり、ひがみっぽくネガティブな性格になったり、攻撃的な面が表れたりする。
また、第2子や中っ子についても、待望の男の子や女の子として生まれ、溺愛されて育つと、長子的な性格を備えやすく、脇の甘さが見られるようになるという。
では、ビジネスの現場では、生まれ順はどのような影響を持つのだろうか。
「取引や交渉において、『相手が何番目の生まれか』というのは考慮するべきでしょう。長子は、わがままで強引そうに見えても、やはり人がよいところがあるため、交渉相手としては楽といえます。こちらが困った顔をすれば、あまり無理は言わないものです。ただし、すぐ下に優秀なきょうだいがいて、脅かされて育ったような場合には、シビアな面を持ち合わせています。
一方、第2子、特に中っ子は揉まれて育っただけに、厳しい交渉をしてきます。『これ以上言ったら、相手は困ってしまうだろう』などと考えず、『ビジネスはビジネス』と割り切ります。末っ子は、状況を客観的に見るところがある一方、相手の顔色を見てしまうところもあるため、交渉相手としては、その中間くらいといえます」(同)
第2子(中っ子)、末っ子、長子の順に、手ごわい交渉相手となるようだ。これは、上司と部下の関係にもいえるため、相手のきょうだい構成を知ることは、意外な場面で役に立つことがあるかもしれない。
そもそも、「きょうだいコンプレックス」はきょうだい間の問題のように見えるが、実際には親の愛情をめぐる争いが関わることが多い。そうした意味で、なかなか克服できない、やっかいな問題でもある。
同時に、大人になっても引きずっている人が多いため、ビジネスの場で相手を理解する上では、大きな指標になってくれることは間違いないだろう。今後、大事な取引などの際は、相手のきょうだい構成を調べることから始めたほうがいいかもしれない。
(文=野中ツトム/清談社)
『きょうだいコンプレックス』 きょうだいは同じ境遇を分かち合った、かけがえのない同胞のはずだ。しかし一方では永遠のライバルでもあり、一つ間違うと愛情や財産の分配をめぐって骨肉の争いが起こることもある。実際、きょうだい間の葛藤や呪縛により、きょうだいの仲が悪くなるだけでなく、その人の人生に暗い影を落としてしまうケースも少なくない。きょうだいコンプレックスを生む原因は何なのか? 克服法はあるのか? これまでほとんど語られることがなかったきょうだい間のコンプレックスに鋭く斬り込んだ一冊。