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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

「最近、自分は少し変」は危険な兆候…コロナ鬱、8つのチェック項目と具体的解消法

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士

「最近、自分は少し変」は危険な兆候…コロナ鬱、8つのチェック項目と具体的解消法の画像1

「gettyimages」より

 新型コロナウィルスの感染拡大が止まらず、緊急事態宣言が出され、ついにそれが全国に適用される事態となった。通勤や外出の自粛が要請される状況下で、通う場所を失い、気晴らしの場所も奪われた人たちの中で、鬱的な症状に苦しむ人も出てきている。

 本人の自覚のないうちに、鬱的な症状が進んでいくことも考えられる。そこで、その徴候と対処法について考えてみたい。

迫り来るコロナの憂鬱

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「心を強くするストレスマネジメント」(榎本博明/日経文庫)

 新型コロナウィルスの感染拡大が恐ろしいことであり、何とか食い止めるには、外出は極力避ける必要がある。それは頭では理解できても、心がついていけない、そうした状況に心が適応できていない。そんな人が少なくないのではないか。

 いつも通っていた職場に通えなくなった。職場にいれば、けっして楽しいことばかりではない。腹立たしいこともあれば、辛いこともある。面倒くさいなと思うこともある。満員電車に乗るのがきついと思ったこともあったかもしれない。でも、それが自分の日常だった。そんな日常を奪われてしまったことの喪失感は思いのほか大きい。

 行けなくなったのは、職場だけではない。人の密集場所をなくすため、多くの飲食店が営業自粛を余儀なくされている。電車による移動も極力避けるように、ということになった。そのため、仕事帰りによく通った居酒屋にも、しばしば立ち寄った喫茶店にも行くことがなくなった。

 近所の様子も様変わりした。休日に通っていたスポーツジムが閉鎖されたり、趣味のために通っていたカルチャー講座も閉鎖されたりしている。コーヒーを飲みながら読書をしていた行きつけの喫茶店もやっていない。買い物を楽しんだショッピングセンターも、食料品売り場以外は閉鎖されている。

 こうした状況に置かれ、心身の状態に変調を来す人も出てきている。そこで、コロナ鬱などという言葉まで囁かれるようになってきた。

 たしかにこのように慣れ親しんだ環境を奪われるのは、だれにとっても大きなストレスになる。それが高じると鬱的な症状につながりかねない。ゆえに、自分がコロナ鬱に冒されつつある徴候に気づいたら、早急に何らかの対処を心がける必要がある。

日頃の自分を振り返り、鬱的な徴候をチェックする

 最近の自分はちょっと変だな、と感じることがあれば、それはかなり危険と言える。ただし、そうした自覚のないままに鬱的な症状が進んでいくこともあるので、とりあえず日頃の自分を振り返り、危険な徴候がないか、チェックしてみたい。

 鬱的な心理状態の中心的特徴としてあげられるのが、心のエネルギー水準の低下だ。それは、具体的には、つぎのような徴候としてあらわれる。

(1)気力が湧かない

(2)何もやる気がしない

(3)これまで楽しんでいたことも楽しめない

(4)人と話すのも面倒になる

(5)いつも疲れている

(6)食欲がない

(7)何事にも興味がない

(8)人と一緒にいても距離を感じる

 こうした徴候の中にあてはまるものがいくつかあれば、コロナ鬱を疑ってみる必要がありそうだ。

 たとえば、これまで楽しみに見ていたテレビドラマも見る気がしない。たとえテレビをつけ、ドラマを見ていても、気持ちが入り込めず、上の空な感じで、けっして楽しんでいない。

 ときどき会ってしゃべっていた気心の知れた友だちと会えなくなり、電話で話すようになったが、何だか話すのが面倒くさい。メールやLINEでのやりとりも面倒くさくなってきた。

 これまでは料理や食事を楽しんでいたのに、料理するのも食事するのも必要最低限の義務といった感じになり、料理も楽しめないし、食べていても味気ない。

 このような徴候がみられたら、今すぐにでも対処法を意識するようにしたい。

コロナ鬱を防ぐには

 自分に鬱的な徴候がみられたら、それがひどくならないうちに、早めに対処するのが望ましい。

 まず必要なのが、ネガティブな思考の連鎖を止めることだ。気持ちが落ち込むと、ネガティブなことを考えがちになる。ネガティブなことを考えると、気分がさらに落ち込む。

 嫌な気分のときに過去を振り返ると嫌な記憶がよみがえるという記憶における気分一致効果が心理学の実験でも証明されているが、それと同じく、気分が落ち込んでいるときには嫌なことを思い出しがちだし、悲観的な思考に陥りがちだ。ゆえに、気分が落ち込んでいるときは、思考の連鎖を止めることが大切になる。

 そのために効果的なのが、身体を動かすことだ。日本独自の心理療法である森田療法でも、意識と症状の連鎖を断ち切るためにひたすら何らかの作業に没頭する作業療法が用いられているが、悪い思考の連鎖を断ち切るには、身体を動かすのが効果的だ。

 鬱的な心理状態のときに何もしないでボーッとしていると、悪い思考のループにはまっていきやすい。そんなときは、身体を動かすことで、意識活動が中断され、自分の内面にばかり意識が向かう状態から脱することができる。

 具体的には何をしてもよい。自分がやりやすいことをすればよい。たとえば、軽い運動をする。庭仕事をする。家具の補修など大工仕事をする。大掃除をする。部屋の模様替えをする。料理をする。何でもよいので、何らかの作業に没頭する時間をもつようにすることである。

 発想の転換も必要だ。通勤できない、職場に行けないというようなことばかり考えていると気分が沈みやすい。その思考を変えてみる。たとえば、通勤電車に乗らなくていい、職場に行かなくていいというように考えてみる。そうすると、通勤地獄からしばらくは開放される、通勤時間を節約できるから朝もゆっくりできる、といったメリットに気づく。今の状況の良い面に目を向けるように意識することも大切だ。

 一番大事なことは、家を自分の居場所と思えることだが、いきなりそうなるのは難しいだろう。ゆえに、以上のようなことを意識して行いながら、家での楽しみを見つけるようにしたい。もちろん、散歩に出るなど、適度に外に出て気分転換することも大切だ。

(文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士)

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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