京都産業大学(京都市)に通っていた富山市の20代女性が、新型コロナウイルスに感染したというニュースに関して、インターネット上で真偽不明の情報が錯綜している。同学生は感染発覚当初からインターネット上で身元が特定されていたこともあって、匿名掲示板やTwitter上を中心に「学生の自宅が石を投げられた」「市長に詰問された」「村八分になっている」など富山市の住民が嫌がらせを行っているかのような記述が殺到している。実際のところ、どうなのか。
「市長や偉い人に詰問」「窓に石が投げられる」
この女性は同県内で初の感染者だった。3月21日にヨーロッパ旅行から帰国した大学の知人らが出席していたゼミの卒業祝賀会に参加したことがきっかけで感染したと見られている。その後、この女子学生を介して複数人が感染したという。このため、女子学生の行動に対して、当初から不注意との指摘は多くなされていて、Twitter上では以下のような投稿が相次いでいる。
「そういや富山県にコロナ持ち込んだ京産大学の家がマジでやばいことになってた
・コロナ持ち込んで大型ショッピングモール2店休業
・市長や偉い人に詰問
・ネットで住所氏名特定される
・父親失職
・窓に石投げられる
・一家引っ越す(今ここ)」(原文ママ、以下同)
「陰口を言う人はいますが、石を投げたりとかはない」
こうした投稿に対して、以下のようにデマだと指摘する地元住民の声も上がっており、ネット上は紛糾している。
「感染者の人がひどいことされてるという噂が多いけど、デマも多いので過熱させないようにしてください。感染かなと思っても、隠してしまう人が出てきそう 」
「富山の京産大生の家の村八分がひどいように言われてますが、さすがに訪問する人はいないし、陰口を言う人はいますが、石を投げたりとかはないです」
「富山に1番最初にコロナ持ち込んだ大学生の家族が引っ越したとかツイッターで見たけど、敷地に車はあるから真偽不明。石が投げ込まれたってのもブルーシートはあるものの投げ込まれたかは不明。落書きに関しても張り紙はあるが落書きは見てない。(身内の職場の人から聞いた話ですので)」
デマが事実だとすれば、重大な人権侵害だ。ましてや窓ガラスを投石で割ったのであれば、明確な器物損壊容疑だ。一方で、すべてデマなのであれば地域のブランドイメージの棄損は著しい。「村八分」という言葉に良いイメージを抱く人はいないだろう。
富山市「ネット上のことに関してはお答えできません」
ネット上の投稿には女性に対し「市長が詰問した」との記載もある。本当なのか。
富山市企画管理部広報課担当者は「ネット上のことに関しては一切お答えできません」と話す。ネット上のデマすべてに市が回答することはできないにしても、「市長の詰問」の真偽すら回答できないとはどういうことなのか。
富山県関係者は次のように語る。
「地元市議の話では『さすがにそんな事実はない』とのことですが私自身、直接、家を見に行ったわけではないのでわかりません。地方特有の基本的に内々の問題は内々で処理するという意識があって、外部のメディアや他県民の言動なんて気にしないということなんでしょう。ただ、このご時世で何も反応しないのは悪手だと思いますよ」
事実でないのなら明確に否定すべき
災害時のデマ対応に関して、福島県幹部は次のように話す。
「東日本大震災の時にも、『いわき市田人で食料も水も来ていなく餓死寸前』『石巻の避難所で幼児が餓死』など事実無根のデマが流れました。その際、公的機関や市町村議、県議などが実際に現場を訪問、視察した上で一つ一つこれを否定していきました。いずれももし事実だったとしたら、大変な事だったからです。すぐにでも対処しなければならない問題だったからです。今でも被災地のそうした努力は無駄ではなかったと思います。
コロナウイルス問題で行政職員の中にはピンときていない方も多いようですが、こうしたデマは初動の段階で確実に否定しなければ、何年でも何十年も人の記憶に残ります。東京電力福島第1原発事故後、本県が全国の心ない方から、どのように言われ続けてきたかをみれば明らかでしょう。損なわれたイメージを取り戻すためには、長い時間と膨大な労力が必要です。だからこそ事実でないのであれば明確に否定することこそ、もっとも大事だと思います」
新型コロナウイルスはこれまでの災害と異なる形で、個人から行政に至るまでさまざまな風評被害をもたらしている。しっかり検証する必要があるだろう。
(文=編集部)