一度、閣議決定した補正予算案を組み直す、それも与党がひっくり返して組み直す。前代未聞の事態である。
新型コロナウイルスの感染拡大に対する安倍政権の対応が迷走を極めている。4月7日に閣議決定した緊急経済対策で一旦、見送られていた「国民1人当たり現金10万円一律給付」が16日、突如復活。条件が厳しくもらえる人が少ないと国民の不評を買っていた「所得減の世帯に30万円給付」は取り下げ、補正予算案を組み直し、再度、閣議決定を行うことになった。
「10万円一律給付」が実現に至ったのは、自民党の二階俊博幹事長が口火を切り、公明党の山口那津男代表が安倍晋三首相に直談判した結果だが、安倍首相にとっては、公明党が大臣を引き上げ、閣外協力に退く可能性をちらつかせたことに加え、各種世論調査で内閣支持率が軒並み下落している世論の風当たりも考慮せざるを得なくなったためだろう。
「10万円一律給付」は当初から公明党が提案しており、自民党内にも前向きな声があった。それを安倍首相が採用しなかったのは、側近中の側近である今井尚哉首相補佐官兼秘書官の進言が背景にある。
「一律給付しても効果がないのは、定額給付金の時に実証されています」と、今井氏は2008年のリーマンショック後の経済対策で国民全員に1万2000円を給付したもののバラマキだと批判されたことを例に出して、安倍首相を説得したというのだ。財務省も一律の現金給付には消極的で、定額給付金を支給した時の首相だった麻生太郎財務相も否定的だった。
この一件に限らず、安倍政権の一連のコロナ対策は後手後手のうえ、場当たり的で世論の評価はイマイチなのだが、失敗の影に見え隠れするのは今井補佐官の存在だ。
2月27日の政府の対策本部会合で突如、安倍首相が事前の文部科学省との調整もそこそこに、全国の小中高校・特別支援学校等の一斉休校要請を打ち出した。「私の責任で決めた」と安倍首相は自らの政治判断を強調したが、これを勧めたのも今井補佐官だった。
「マスク2枚配布」決定にも今井補佐官が関与
さらに4月に政府が打ち出した一世帯につき2枚の布マスクを配布するという施策に、世論の多くが唖然とし、郵送費含め466億円もが費やされることがわかると、さらに批判が強まったが、これにも今井補佐官が関わっている。
「布マスク配布は、経済産業省内にマスク増産体制を企業と調整するチームがあり、その延長線上で浮上した話のようです。今井補佐官は経産省出身。首相官邸内には今井氏の子飼いの経産省出身の佐伯耕三首相秘書官もいる。経産省を通じて布マスクの情報が今井・佐伯ラインに伝わり、佐伯氏が安倍首相に『全国民に布マスクを配れば不安はパッと消えますよ』と伝えたというのです」(自民党関係者)
そして、悪評が出ている安倍首相のツイッター動画も佐伯秘書官の発案とされる。シンガーソングライターの星野源がインスタグラム上にアップした動画「うちで踊ろう」にコラボするかたちで、安倍首相は自宅で犬を愛でたり、優雅にティータイムを過ごしたりする動画をアップし批判を浴びた。
昨年来、官邸内では安倍首相と菅義偉官房長官に隙間風が吹いている。ポスト安倍をめぐる暗闘や菅氏の側近2人の大臣辞職もあり、菅氏の存在感低下とともに、官邸内で今井補佐官の鼻息が荒くなっている。
今回のコロナ対策のような「危機管理」は本来、官房長官マターだが、安倍首相は担当大臣に西村康稔経済再生担当相を就けた。西村氏も経産省(旧通産省)出身である。
「コロナ対策では、あらゆることが今井補佐官の旗振りの下で動いている。今井補佐官は元経団連会長の今井敬氏の甥っ子。安倍首相と違わぬ上級国民ですから、庶民の感覚などわからないのでしょう」(自民党関係者)
未曽有の国難を迎えるなか、今井補佐官を重用する安倍首相の罪は重い。
(文=編集部)