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稲田俊輔「外食のディテール」

シズラー“悪魔的な美味&量”→“胃袋限界”問題を解決する究極メソッドを考案した

文=稲田俊輔/飲食店プロデューサー、料理人、ナチュラルボーン食いしん坊
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シズラー HP」より

 前回の稿でシズラーの「プレミアムサラダバー」の、もはやサラダバーという概念を超えた多彩な品揃え、そして一品一品の充実した魅力については充分にご理解いただけたものと思います。しかしこのことは同時に、非常に解決困難な一つの問題点と表裏一体でもあります。

 それはひとえに「量の問題」。サラダバーに並んでいる料理を一通り食べようとすると、よほどの大食漢でもないかぎり、一周する頃には胃の許容量を容易に超えてしまいます。さらにあの悪魔的な魅力を持つ「チーズトースト」の誘惑に抗えず、ついつい追加オーダーを重ねてしまうと、一周すらとうてい無理でしょう。

 しかもシズラーの料理は基本的には「アメリカン」なのです。これが何を意味するかというと、サラダやデリにしても、あるいはタコスにしても、並んでいる料理の多くはある程度の量をモリモリと食べたほうがおいしいタイプの料理なのです。中身の貧相なタコスはつまらないですよね。やはり、あふれんばかりに具を包み込み、ぼろぼろとこぼれそうになるのと必死に闘いながら大口開けて頬張るのが醍醐味。

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『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本 』(稲田俊輔/扶桑社新書)

 日本人は基本的に「ちょっとずつ色々」をチマチマとつまむ事を好みます。もちろんシズラーのサラダバーはそういう楽しみ方も決して不可能ではないのですが、それだけに終始してしまうとその本領を発揮しきれない恐れもまたあるわけです。なので最高の満足感を目指せば、ますます品数は絞らざるを得なくなる。

 そしてあろうことか、シズラーの魅力はもちろんサラダバーだけではありません。肉や魚介のメインディッシュもまたサラダバーに勝るとも劣らないおいしさ。しかもそれはサラダバー単品にせいぜい1000円程度の追加で楽しめてしまうのです。言っておきますがメインディッシュもそれはそれでなかなかボリューミーです。アメリカンです。

 いろいろ食べたい、できれば全部楽しみたい、でも胃袋の許容量は限界、このジレンマ!

というわけで、私はこれをつつがなく解決する究極メソッドを思い付きました。

「シズラーには2日続けて行け」

 これです。ただし注意してほしいのは、これは決して「2日に分けて全品制覇」という意味ではありません。どういうことか。では具体的に順を追ってこの究極メソッドについて解説していきましょう!

1日目:多くの品数を制覇する

 まず1日目。この時は自分が日本人であることを素直に受け入れます。心残りがないようになるべく多くの品数を制覇するのです。そのためにはメインのグリルはなし、サラダバーオンリーにするほうが良いでしょう。チーズトーストも2枚まで。少食な方は1枚で我慢すべきかもしれません。確実に心残りが生じるでしょうが、ここは心を鬼にしてください。ただしタコスだけはモリモリでないと意味がありません。逆に言えば終盤のタコスフィニッシュに向けて、慎重にそこまでのペース配分を行う必要があるということです。

 1日目はこれで終了、と言いたいところですが、ここでもう一踏ん張りです。いや、ここから限界を超えて食べろという話ではありません。家に帰ってから脳内反省会を行うのです。これは、満腹のままベッドに倒れ込んだタイミングで行うのがベストだと思います。

「その日本当に自分が食べたかったものは何だったのか。本当に無駄がなかったと言えるのか」

 冷静に自分に問いかけるのです。満腹の状態でそれを考えると、案外的確に絞れてきます。「はっ! タコスは別に食べる必要なかったのでは?」みたいな気付きがあります。それに基づき可能な限り品数を絞った2日目のプランを立てます。

2日目:1日目で総ざらいしたからこそのファインプレー

 さて2日目です。シズラーのサービスマンはおしなべて優秀ですから、もしかしたらあなたの事を覚えているかもしれません。メンタルの弱い方はここで「こいつまた来たw」とあきれられたらどうしよう、と不安に駆られるかもしれません。

 しかし! その心配はいりません。私自身が飲食店側の人間ですのでこれは断言しますが、2日続けて来てくれたお客さんのことを奇異の目で見ることはありませんし、ましてやそれを内心で嘲笑するなどということは「絶対に」ありません。むしろそこには内心の秘かな喜びしかありません。さらに付け加えると、たまたまその店を気に入ったお客さんが連続で来店するというケースは、たぶん多くの人が考えているより飲食店側からしてみればずっと日常茶飯事です。そしてもっと言えば1日100人以上のお客さんが訪れる店で、店員は一人ひとりの事はまったく覚えていないことのほうが圧倒的です。

 逆に2日目の来店で「今日もまた来てくれたんですね!」という昭和のスナックのようなベタベタの歓待を受けたい方がもしもいたら、1日目に入念なアピールで下拵えをする必要と、そこまでしても何も覚えていないことにショックを受けない逆のメンタルも必須です。そのあたりはご自由にどうぞ。

 閑話休題、改めて、さて2日目です。

 あなたは前日のがんばりで「一通り全部食べたい」といういかにも日本人らしい食への好奇心はとりあえず昇華されているはずです。あとは前日立てた計画を入念に実行するのみ。品数を絞る分、一品一品はなるべく「モリモリ」にすることで本来のスペックが堪能できます。絞りの精度を高めればちゃんとグリルも頼めます。もちろん組み立てによっては無限チーズトーストも可能です。

 私がある時実際に組んだ2日目のセットリストはこのようなものでした。

・もりもりミモザサラダ(ミックスレタス+オニオンドレッシング+チョップドエッグ+クラッシュアーモンド+トリュフオイル+シェリービネガー+黒胡椒 神マヨネーズ添え)

チーズトースト×4枚

・ニューイングランドクラムチャウダー×2杯(1杯はトリュフオイル追加)

・やまと豚ロースのグリル(ミントソース選択 フライドポテト選択+トリュフオイル)

・ビーフカレーとライス(ごく少量 チーズと黒胡椒、フランボワーズビネガートッピング)

・アフォガード(ソフトクリーム+エスプレッソ)

 この組み立ては完璧な満足感でした。私にとってシズラー史上最高といっても過言ではありません。前回「サラダバーの主役」とまで言い切ったデリサラダをすべてオミットできたのは自分でも驚きましたが、これも1日目で総ざらいしたからこそのファインプレーです。スープを1種類に絞れたのも2日目ならではです。

 その代わり前日心残りだったグリルもお気に入りのミントソースでしっかり楽しめましたし、チーズトーストのリミッターは解除しました。食後の過度の膨満感を避けつつ摂取カロリーも抑えるため、最後はタコスを華麗にスルーして量の調節がしやすいカレー、なおかつデザートのボスであるアップルクランブルも見て見ぬ振りをすることに成功しました。

 1日目からいきなりこの組み立てを実行しても、きっとなんらかの心残りがあったことでしょう。また、2日連続ではなく、1回目と2回目に間が空いてしまっていたとしたら、やっぱり「あれも食べたいこれも食べたい」という煩悩はあっさり復活してしまっていたと思います。

 あなた自身の「シズラー2日目」、いつか実行したら私にもその渾身のセットリストをぜひ教えて下さい!

 心から楽しみにしています。

(文=稲田俊輔/飲食店プロデューサー、料理人、ナチュラルボーン食いしん坊)

稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長

稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長

料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店の展開に尽力する。2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。現在は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に、業態開発や店舗プロデュースを手掛けている。近著は『食いしん坊のお悩み相談』(リトル・モア)。

Twitter:@inadashunsuke

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