障害者差別禁止法は施行されたが……
2016年4月に施行された「障害者差別禁止法」は、障害を理由とした差別を解消することを目的としており、民間企業に対しても障害者に対する合理的配慮を求めている。車椅子だからと搭乗を拒否しようとしたバニラ・エアの対応は、この法律にも抵触しているように思える。
ところが、今回の件で批判を浴びたのは、むしろ木島氏のほうだった。
木島氏に対する批判の主なポイントは、事前に「自身が車椅子であることを航空会社に伝えていなかった」ことにある。車椅子の搭乗には、相応の装置や準備が必要なはず。しかし、それを予約の際に伝えていなかったのが、そもそもルール違反だということだ。
この件に関する考察記事のなかでも、特に多くの支持を得た「いずみ社長ブログ」も、「航空会社が上客の安全とスムーズな運行のために車椅子の乗客に事前申告を求めるのは当たり前であり、それをしないで航空会社にクレームをつける木島氏のスタンスには違和感を感じる」という趣旨の文を書いている。
このことについて木島氏は、自身のホームページでこう釈明している。
「でも、事前連絡したら、まず乗れなかったのですよー。設備がないことを理由に全て断っていたんです。新聞記者の取材でも明らかになっています。実際に何人か断られた方も知っています。--そもそも飛行機に乗るのに、大きな手伝いは必要なく、私は事前連絡せずに乗っても問題ないと考えています。事前連絡をすると、ていよく断る、たらい回しになるといった経験は当事者なら多いと思います」
ちなみに木島氏のブログによると、外国の航空会社ではたとえばキャセイパシフィック航空やユナイテッド航空などは、車椅子の乗客の事前連絡を必須にしていないらしい。また、今回の件を受けてバニラ・エアは謝罪し、車椅子の搭乗に関するホームページの記載も変更した。
同じ障害者による批判コメントと思われるものも……
障害者差別解消法のなかにある「合理的配慮」の考え方は、障害者権利条約第2条の定義に基づいている。
それによると、合理的配慮とは、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」だ。
ここで議論となりそうなのは、車椅子の搭乗のためにストレッチャーなどの設備を整えることが「均衡を失した又は過度の負担」に当たるのかという点だろう。
今回の記事に対する批判のポイントのひとつに、「バニラ・エアはさまざまな経費を切り詰めて運行しているLCCなのだから、車椅子の人にとっての不利益は受け入れるべき」とのものがあった。
だが、経済効率を優先するために、マイノリティがマジョリティの犠牲となるのは好ましい社会とはいえまい。やはり、車椅子の搭乗のための設備を整えることも、「合理的配慮」に含まれるのではないだろうか。
確かに、事前連絡をせず乗ろうとした木島氏の行動は褒められたものではない。しかし、事前連絡をしても搭乗を断られるだけだったとしたら、彼の行動が後に続く障害者のために風穴を開けた可能性もある。
それに、旅先から帰ろうとしている乗客を前にしているのだから、職員が車椅子を担いで運ぶことだって、自然と行われるべき「合理的配慮」のひとつだったのではないかとも思える。
3年後の2020年には東京パラリンピックも開かれる。障害者をめぐる「合理的配慮」に関する議論は、引き続き行っていく必要があるだろう。
(文=ヘルスプレス編集部)